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VOICE

大学院医学系研究科総合保健学専攻

No.29 上山 純 准教授

My Best Word:不易流行

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

いつまでも変わらない本質的なものに、その時代に合わせた新しい工夫を加えるという、松尾芭蕉が唱えていた理念です(「去来抄」より)。多くの方のおかげで、これまで見出してきた私の研究者・教育者としての存在意義・価値・使命を不易(変わらないもの)として、時代環境やニーズに合わせた流行(変化すべきもの)をバランスよく取り入れ、医学の発展に貢献したいと思っています。この言葉は私の心構えを教えてくれていると思い、自分で意識して思い返すようにしています。

 

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

私は身の周りに存在する化学物質、特に殺虫剤や農薬の低濃度でかつ長期的な曝露(吸収)が健康に影響しているかどうかを疫学的に評価する研究をしています。特に、「どれくらいの化学物質が人体に吸収されているのか」を評価する方法(曝露評価法)を開発しています。研究室に籠りっきりではなく、検体採取のために農家さんに会いに行ったり、子どもの検診会場の手伝いをしたり、時には公園に蚊を捕まえに行くこともありますよ。

 

Q:研究を始めたきっかけは?

「研究」のレベルを問わないのであれば、医学部保健学科での卒業研究が始まりです。ところが実験がすぐ始まるのではなく、名古屋大学や医学部保健学科の歴史や現状などを教えていただき、これが研究に対する姿勢をいろんな角度から知ることになり、それが今に活きていると思います。高速液体クロマトグラフィーという測定装置を使用した研究でしたが、結果が写る感熱紙の山に埋もれていました(今はPC で処理します)。目の前の課題をクリアすることで精いっぱいでしたね。

 

(画像4の様にトリミング)DSC_2021-01-15-134421b-2_mihon_smallsize2.jpg
私の研究室で所有する3台の質量分析装置で

超高感度分析を行っています

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2020年度メンバー

それぞれがアイデアを出し合って研究に取り組んでいます

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国際的な外部精度管理プログラム(G-EQUAS)の精度保証認定証

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居室にある保健学科の表札のもととなった書

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汪兆銘の梅の花

(南館ウラ、2020年3月11日撮影)

 

Q:研究が面白い!と思った瞬間はどんな時ですか?

少しみなさんとズレているかもしれませんが、「自分でアプローチできる問い」を見つけたときです。問いには大小ありますが、意外と基礎的な検討がされずに棚上げされている問いもあると判明したとき、特に面白いと思いました。例えば最近では便の中から代謝物を分析するときに、便のどこを分析すればいいのか?その安定性は?という疑問にぶつかりました。誰もが疑問に思うであろう点が意外と明らかになっておらず、さらに多くの研究者がその情報を必要としていることが分かりましたので、研究を開始した経験は記憶に新しいです。実験計画や方法(論)はいくつも学びましたが、問いの見つけ方やそのトレーニング方法論など、非常に情報が少ないのが悩ましいですね。

 

Q:先生は、農薬や家庭用殺虫剤などの曝露評価に関する研究をされていますが、この研究の中で印象に残っていることを教えてください。

近年の測定技術の向上によって、普通に生活している人の尿からでも農薬や家庭用殺虫剤などが検出されます。論文などで公表したこの測定値が、思いもよらない解釈をされたときには、市民との科学コミュニケーションの重要性を痛感しました。同時に、測定値の信頼性確保の必要性を感じ、精度保証の認定をラボで受けることができました(写真3枚目)。おそらく大学研究室では国内唯一ではないでしょうか。

 

Q:休日はどのように過ごされていますか?リフレッシュ方法などあれば教えてください。

趣味や健康維持のための運動など充実した時間……と言いたいところですが、今は仕事の遅れを取り戻す時間に半分くらい費やしています。あとの半分はリフレッシュも兼ねて子供に遊んでもらっています(家事も少々)。大幸キャンパスには木々が多く良い雰囲気で、よく隙間時間に散歩します。特に南館ウラにある「汪兆銘の梅」は毎年とてもきれいに花をつけて目を楽しませてくれるとともに(写真5枚目)、名古屋大学の歴史も感じることができます。

 

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

とくに隠していたわけではありませんが、医学部保健学科(筆者の所属学部であり出身学部)の表札のもととなった書が私の部屋にあります。第十代総長の加藤延夫先生の書であり、私の恩師(自称加藤先生の一番弟子)が受け継いだものです。その恩師もご退官されて私が引き継いで部屋に掛けていますが、いい意味で緊張感を与えてくれています。誰かに見られているような……。

 

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

ここ大幸キャンパスにはさまざまな保健学領域の専門家と有機的な連携を取りやすく、さらに最近では情報科学の知識や技術を身に着け研究できる基盤が整いつつあります。「不易流行」というMy Best Wordを胸に、研究室の主役である学生と意欲的に新しい取り組みを進めることで、問いの追求から生まれる「私たちしか知らない発見のワクワク」を共有することを続けたいです。

  

氏名(ふりがな) 上山  純 (うえやま じゅん)

所属 医学系研究科総合保健学専攻

職名 准教授

 

略歴・趣味

2004年名古屋大学大学院医学系研究科博士課程(前期)修了後、名古屋大学医学部附属病院検査部に勤務。その後、名古屋大学医学部保健学科助教に着任し、2009年に金沢大学にて学位取得(博士(医学))。2011年より現職。2017年日本衛生学会奨励賞。2017年より環境省:化学物質のヒトへの曝露量モニタリングに関するタスクフォース委員等。

趣味:釣り

 

 

【関連情報】

2023/2/24 プレスリリース「日常的な農薬摂取が及ぼす腸内環境への影響をヒトで確認」

2022/4/15 プレスリリース「日本人小児における除草剤グリホサートの曝露実態を初めて観察 -バイオモニタリングを用いたリスク評価の発展に期待-」

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