TOP   >   Researchers' VOICE   >   No.31 新美 倫子

Researchers'

VOICE

名古屋大学博物館・大学院情報学研究科

No.31 新美 倫子 准教授

My Best Word:資料の声を聴け

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

学生の頃に師匠から言われた言葉です。私たち考古学者は、どうしたら出土資料からより多くの情報を引き出せるかを、いつも考えています。資料はぼんやり眺めているだけでは黙りこくって何も語ってくれません。しかし、こちらが日々観察のための訓練を積んだ上で資料にあたれば、多くのことを教えてくれます。だから、資料の語る声が聴こえるように、常に準備しておきなさいというものです。考古学を始めてから年月を経た今でも、いや今だからこそ、そのとおりだとますます強く感じますし、いつも忘れないようにしています。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

遺跡を発掘すると、土の中からさまざまなものが出てきます。それらの中でも人々に利用された動物の骨 ―貝がらや魚の骨や人骨も含みます。それは食べた後に捨てられたゴミだったり、お墓に埋葬されたものだったりするのですが― を材料として、昔の人たちの暮らしや文化を復元する研究をしています。

 

Q:研究を始めたきっかけは?

大学ではなんとなく考古学専攻に進学して、初めての発掘実習で北海道に行き、12世紀頃の住居の跡を掘りました。土の層を一枚、もう一枚とはがしていくと、家の形がだんだん現れてくるので、「発掘っておもしろいな」と思いました。さらに、その家にはカマドがあり、火を焚いた後の灰が残っていて、この灰をふるいがけしたら、よく焼けた魚の椎骨がたくさん出てきました。コマイという魚(タラの仲間)だったのですが、調べていくと、この骨は大きさから見て十分に成熟した成魚であり、おそらく冬のもっとも寒い時期に産卵のために海岸にやってきた個体が捕られたのだろうとわかりました。「こんな小さな骨から、捕った季節までわかるのか」と思ったことがきっかけです。

 

202203010_num_3.JPG

温根沼貝塚(北海道根室市)で作業中



202203010_num_4.jpg

日の出貝塚(北海道浜頓別町)発掘調査



202203010_num_5.JPG

発掘調査の休日

 

Q:研究が面白い!と思った瞬間はどんな時ですか?

これまでの定説をひっくり返す、あるいはまったく新しい展望につながる鍵となりそうな資料を見つけた時でしょうか。それらを観察・計測してデータをとり、集計して結論までの道筋を組み立てていくのは、とても楽しいです。もっとも、資料を見た瞬間に「おおっ、これはいける!」と思っても、あとから「やっぱりダメでした・・・」となる場合も多いのですが。

 

Q:「7200年前の沖縄に多数のブタがいた」という先生の研究成果はインパクトがありました。沖縄でも調査研究を行っていますが、印象的な出来事を教えてください。

これは、「日本列島でブタの飼育が始まったのは弥生時代(約3000年前)からとこれまで言われてきましたが、沖縄ではそれよりはるかに古い7200年前にすでに多数のブタが中国大陸から導入されていた」という話です。沖縄は現在もブタを本州よりかなりたくさん食べる地域で、ブタの肉だけでなく皮や血までも食する独特の文化が知られています。さかのぼって数百年前の中世や近世の遺跡でも、当時の人々が食べたブタの骨が大量に出土します。ただ、いくら沖縄でも7000年以上も昔の遺跡であれば、まだブタを利用していなかっただろう、出土するのは狩猟された野生のイノシシだろう・・と私も考えていました。

そして、沖縄に行き7200年前の野国貝塚から出土したイノシシの骨と言われてきた資料を見たわけです。すると、下顎骨がみんなブタの形をしていました(写真)。ブタは野生のイノシシを人間が長い時間をかけて飼いならして作り出した家畜であり、この家畜になる過程で身体のあちこちの骨の形が変わっていくことが知られています。下顎の骨では矢印で示した部分が凹む(イノシシは凹まない)という変化が見られるのですが、野国貝塚から出土した下顎骨はどれもこの部分が凹んでいました。これを見た時には本当に驚いて、思わず「え?え?みんなブタなの??」と声に出してしまいました。

 

202203010_num_2.png

出土したブタ下顎骨

 

 

Q:くじけそうになった時は?リフレッシュ方法を教えてください。

春〜秋は発掘や資料調査で各地に出かけていることが多いのですが、これらの調査地での楽しかった情景―雨上がりのクッチャロ湖であったり、夕日に輝く博多湾であったり―を思い出します。そうすれば、困難な状況下にある時でも、だいたい何とかなります。

 

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

人前で話すのが苦手なので、教員になった時には「大勢の人の前で授業なんてできるのだろうか・・」と心配でした。

 

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

今後取り組みたい研究テーマがたくさんあるので、そのためにもっといろいろな資料を見たい、そして考えたいと思っています。海外の資料もコロナのおかげでしばらく見に行っていないので、早く調査を再開したいです。

  

氏名(ふりがな) 新美 倫子 (にいみ みちこ)

所属 名古屋大学博物館・大学院情報学研究科

職名 准教授

 

略歴・趣味

東京大学大学院人文科学研究科考古学専攻博士課程単位取得退学、博士(文学)。東京大学文学部助教・名古屋大学大学院人間情報学研究科助教を経て現職。趣味は野山や海岸の散策と釣りで、落ちている鳥類・哺乳類や新鮮な魚類を入手できるので、研究で使う現生骨格標本の材料集めも兼ねています。

 

 

【関連情報】

成果紹介記事「7200年前の沖縄に多くのブタがいた」(名古屋大学研究フロントライン)

2021/10/4 プレスリリース「日本列島でのブタ飼育は、弥生時代ではなく、縄文時代にすでに行われていた?」

研究者総覧

研究室ホームページ