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VOICE

大学院法学研究科

No.35 宮木 康博 教授

My Best Word:

人は誰しも自分の痛みには耐えられないが、他人(ひと)の痛みには耐えられる。

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

大学院に進学して間もない頃に、元裁判官の教授から授けていただきました。刑事事件には、事件の当事者として被疑者・被告人と犯罪被害者がおり、それぞれに家族や関係者がいます。この言葉は、実社会に発生した〔であろう〕犯罪への対応を考えていく上で、正義や人権保障の名の下に、人知れず誰かを蔑ろにしていないかを省みる機会を与えてくれます。

ゼミ生との間では、もっとフランクに、「アンテナを張り、やるときはとことんやって、遊ぶときも、とことん遊ぶ」を合言葉にしています。アンテナを張るのは、今の自分にとっては関心がないことでも引っかかってくるようにするためです。これは、食べてみて、「もう二度と食べない」ではなく、食わず嫌いによって、新たな自分に出会うチャンスを逃してきたことへの自戒でもあります。「やるときやって、遊ぶときは遊ぶ」は、使い古されたフレーズですが、「とことん」にこそ意味があります。何歳になっても、ゼミ生と一緒に勉強も遊びも「思いつく限りの最善」を尽くしていきたいところです。

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ゼミOB・OG会(宮友会)2018年10月

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

刑事手続のあり方を探究しています。中でも、身分秘匿捜査(Verdeckte Ermittlungen, Undercover Investigation)の法的規律のあり方や犯罪被害者支援を中心に比較法研究を行っています。「身分秘匿捜査」は耳慣れない言葉かもしれません。日本では、欧米諸国のような潜入捜査は一般的ではありませんが、薬物犯罪などに対し、捜査機関やその協力者が、身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する、いわゆる「おとり捜査」は実施されています。これらの総称が身分秘匿捜査です。薬物犯罪などは、密行的かつ組織的に行われるため、検挙が容易ではない一方、放置すれば、使用者の心身を蝕むなどの危険を生じさせます。そこで、おとり捜査が用いられるわけですが、国家によって犯罪行為に出るよう働きかけがなされるため、実施には慎重さが求められます。本来処罰されるべきでない人を検挙して処罰することは、意味がないどころか、あってはならないでしょう。おとり捜査が、諸刃の剣であることを踏まえ、どのようなルールの下で実施すべきかが課題となります。

 

Q:研究の道に進んだきっかけは?

進路に迷っていたときに、ゼミの指導教授から「大学院で勉強してみてはどうか」と声をかけていただきました。怒られてしまいますが、当時は、「研究」と「ゼミ」が表裏一体であることに気が付いておらず、「研究がしたい」というよりは、「ゼミをやりたい」といった感じでした。

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名古屋大学赴任初期のゼミの様子

Q:研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか?

新たな課題が見つかった時。そして、それに対する自分の考え方に自信がもてない悶々とした日々を送る中で、ヒントになる諸外国の判例や学説と出会い、霧が晴れる兆しが見えた瞬間です。

 

Q:先生は、成人年齢の引き下げで高校生が裁判員に選ばれるようになったことを受け、本格的映像教材「刑事訴訟(捜査編)」を制作しました。制作にあたり、苦労したこと、印象に残っているエピソードを教えてください。

この映像教材「刑事訴訟(捜査編)」の制作は、2019年6月のPSIMコンソーシアム「第33回法実務技能教育支援セミナー」において、ゼミ生が実践的学習として取り組んでいる模擬裁判、模擬取調べ、模擬接見などについて紹介し、先生方とディスカッションできたことがきっかけになりました。リアルなストーリーを通して刑事手続や民事手続を学習できる教材開発への想いが高まり、帰りの新幹線の中から先生方に協力を打診しました。名古屋に着く頃には、先生方から「面白い。やりましょう」というメールが届き、勇気づけられたことを昨日のことのように覚えています。私の思いつきで、企画内容は、書籍の出版から、舞台化および映像化まで含むものへと変遷し、先生方を振り回してしまいましたが、異分野や立場の異なる専門家が意図を汲み取りながら創り上げていく時間と空間に、新たな可能性を感じました。

 

※本映像教材の動画は、2022年6月10日より一般公開しています。

〇予告編(1分23秒)      https://youtu.be/zBG9Scq0XvY

〇本編 (42分27秒)  https://youtu.be/nvLWU42a0bw 

※映像教材のプレスリリースはこちらをご確認ください。

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学内にある模擬法廷教室にて

 

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シンポジウム「犯罪者被害者支援いのちかなでる」 愛知県図書館にて

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映像教材の撮影風景

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

上記映像教材について、実は、初日の午前中の撮影がすべて終わってから、どうしても納得できない箇所が出てきたため、既に現場を離れた役者さんにも電話をして、ほぼすべて撮り直していただきました。「先生の納得がいく作品にしたい」という言葉に救われました。

 

Q:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

休日は、家族でドライブやタイドプール(しおだまり)の生態観察に行ったり、卒業生と食事に行ったりしてリフレッシュしています。

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(左)ゼミ生とシーバス釣り (右) アドベンチャーワールド

 

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岐阜県の清流で家族とリラックス

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我が家の珊瑚水槽

 

 Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

映像教材「刑事訴訟(捜査編)」は、多くの方にご視聴いただき、各方面から反響を頂戴しています。第二弾として、2023年春に、後編となる「刑事訴訟(公判編)」の公開を予定しています。「根無し草」とも評されてきた裁判員制度が新たな局面を迎えるこの時期に、「人が人を裁く意味」をもう一度考えるきっかけとなることを願いながら、妥協なく取り組みたいです。そして、研究面では、ゼミ生と切磋琢磨しながら、公刊済のアメリカ、イギリス、ドイツのおとり捜査の研究に、オーストラリアとカナダを加えたモノグラフィーをまとめ上げたいと考えています。

 

氏名(ふりがな) 宮木 康博 (みやき やすひろ)

所属 名古屋大学大学院法学研究科

職名 教授

 

略歴・趣味

<略 歴>

2007年4月~東洋大学法学部専任講師、2010年4月~同准教授、2011年4月~名古屋大学大学院法学研究科准教授、2017年4月~同教授。2017年6月~法務省司法試験考査委員(刑事訴訟法)、2021年6月~愛知県防災安全局愛知県犯罪被害者等の支援に係る有識者会議委員、2022年6月~日本被害者学会理事、2022年9月~ロシア・サンクトペテルブルク大学客員教授。

<趣 味>

熱帯魚や珊瑚の飼育

 

 

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