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VOICE

大学院環境学研究科

No.37 道林 克禎 教授

My Best Word: 一生勉強一生青春

 

Q:「My Best Word」を選ばれた理由は??

相田みつを美術館で大きな和紙に揮毫されたこの作品を見たとき、これこそ自分の目指す道だと思いました。面白い研究がまとまった時は、遠い昔の青春時代と似た(?)ような高揚感があります。この感覚をもち続けるためには常に勉強(研究)し続けるしかないと奮い立たせてもらう言葉です。似た言葉で「一生感動一生青春」も好きな言葉です。

 

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

惑星地球の地殻とマントルを構成する岩石と鉱物について、物理化学的特徴の一つであるレオロジー(流れのメカニズム)を研究しています。地球を卵に例えるなら、卵の殻に相当する部分が地殻で、白身に相当する部分がマントルです。マントルは、地球表層を覆う地殻の下の6 kmより深い場所に位置し、未だ人類が到達していない岩石層なので、直接手に取って研究することができません。そこで、地球表層に分布するわずかばかりのマントルの痕跡を求めて、北海道のアポイ岳ジオパークに位置する幌満カンラン岩体をはじめとして、アラビア半島オマーン王国のオフィオライト岩体、オーストラリア大陸のカンラン岩捕獲岩などの陸上地質から、伊豆・小笠原海溝、マリアナ海溝、トンガ海溝などの超深海底まで、マントル由来の岩石や鉱物を探して研究しています。これまでに、海洋プレートをつくる中央海嶺やトランスフォーム断層の深部におけるマントルの流れの仕組みや日本列島のような島弧の形成初期におけるマントルの構造発達プロセスについて、明らかにしてきました。

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1996年にアメリカの調査船によってトンガ海溝水深9731mから

回収されたマントル由来の岩石

オリーブ色したカンラン岩で、宝物のような岩石標本

 

 

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伊豆・小笠原海溝陸側斜面の調査のため、

しんかい6500に乗船する(2017年7月)

 

 

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アラビア半島オマーン王国で実施された国際陸上掘削プロジェクトで

地下100mから回収されたモホ遷移帯(地殻とマントルの境界)の

岩石(2017年12月24日)

Q:研究の道に進んだきっかけは?

中学生の頃から将来は研究者になりたいと漠然と考えていましたが、現在の専門分野に進んだのは、学部時代の恩師の影響です。偏光顕微鏡下で拡大された岩石鉱物の組織構造がとても印象的だっただけでなく、それを理論的定量的に理解できることを教えてもらいました。そのときの感動は今も私のモティベーションになっています。

 

 

Q:先生は、日本の領海で最も深い伊豆・小笠原海溝の水深最深部9801mに到達し、日本人の最深潜航記録を60年ぶりに更新しました。最深部に到着直後の気持ちは?

これまでの潜行調査は、海洋研究開発機構の潜水調査船「しんかい6500」に乗船して行ってきましたが、その名前の通り水深6500mの海溝斜面までが限界だったので、いつか海溝底までいきたいと、ずっと夢見ていました。今回、海溝最深部に到着して「夢が叶った」のですが、その瞬間は感慨にふける余裕はなく、「見える、見える、見える」と感嘆しただけでした。これまでのような海溝斜面ではなく、ほぼ平坦な超深海の海溝底に到達できたことが素直に嬉しかったです。

 

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伊豆・小笠原海溝最深部にリミッティングファクター号で到着直後、

日本人最深部潜航記録を更新したことを祝って

世界的冒険家のVictor Vescovo氏と固い握手

(画像はCaladan Oceanic、 Inkfish提供)

 Q:最深部到達を達成するまでにはたくさんの困難があったと思います。一番苦労したことは?

海洋底の潜行調査は天候に左右されるので、予定通りに進まないのはよくあることです。そのため、航海中はあまり欲張らず、もしかしたら潜行そのものが無くなるかもしれないと覚悟していました。今回は予定通り潜行できたのですが、当日まで船酔いであまり船上作業ができず、これが一番苦労したことかもしれません。船酔いから少しでも回復して潜行当日の体調を万全にすることに最も気を遣いました。結果的に運良く天候も良好で、体調万全で潜行することができました。潜行後は脱力感もあって、また船酔いで大変でした。

 

 

Q:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

休日は、天気が良ければロードバイクで知多半島の先端まで走って海鮮丼を食べに行きます。ごくまれに輪行して琵琶湖や伊勢志摩などにも出かけています。走行中は、周囲に気を配ったり、サイコンに表示される心拍数や速度・ケイデンスなどの確認をしたりで忙しく、普段とは違う頭の使い方をするのでとてもリフレッシュできます。150kmくらい走り終わった後に地図に走行ルートを落として確認する時の達成感は格別です。天気が良くないときは、自宅で小説やマンガを読んだり、映画やドラマを見たりしています。

 

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ビワイチ(琵琶湖1周)(2021年7月)

 Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

名古屋大学に赴任したばかりの時は、同僚の先生や学生達に名古屋近郊の出身者が目立つなと勝手に思っていました。しかし、私自身も奥三河に含まれる静岡県佐久間町の出身で、名古屋からもそれほど遠くないことを自覚した時は、誰に言われたわけでもないのに少し恥ずかしかったです。赤だしの味噌汁に全く抵抗感がない自分を再発見しました。

 

 

 Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

私が所属する岩石鉱物学研究室は通称「岩鉱(がんこう)」とよばれる長い伝統をもつ研究室で、多くの卒業生が岩鉱から社会に出て活躍されています。岩石鉱物に関する研究テーマは時代とともに変化していますが、「一生勉強一生青春」をモットーとして、岩鉱を日本の中心、世界の中心にするべく、これからも学生達と楽しくも時に厳しく研究教育活動をしていきます。そして、機会があれば、次はマリアナ海溝最深部のチャレンジャー海淵(10927m)に潜航して、マントル由来の岩石を採りたいです。

 

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岩鉱の学生達と長野県八方尾根登山(2021年10月)

 

氏名(ふりがな) 道林 克禎(みちばやし かつよし)

所属 名古屋大学大学院環境学研究科

職名 教授

 

略歴・趣味

静岡大学理学部・地球科学科卒業、同大学大学院修士課程修了、オーストラリアJames Cook University大学院博士課程修了。Ph.D。静岡大学理学部・教授、静岡大学研究フェローを経て、2018年より現職。海洋研究開発機構の客員研究員を務める。趣味はロードバイクと風景写真の撮影、読書(マンガを含む)、映画、ドラマ、アニメ、YouTube。

 

 

【関連情報】

・動画紹介「名大 理学部の授業のぞいてみた!~岩石学~」(名古屋大学理学部)
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・動画紹介「【連載第六弾!】名大理学オープンキャンパスシリーズ【地球惑星科学科 研究紹介】」(名古屋大学理学部)

イベントレポート記事「深海9801m、岩石学者が本当に欲しかったもの」(名大カフェ)

2023/4/5 プレスリリース「小笠原海溝で発見した魚が『Deepest fish (最も深い場所で確認された魚)』としてギネス世界記録™(以下、ギネス世界記録)に認定されました」

2023/2/28 プレスリリース「海底地形にゴジラの名前!?~フィリピン海プレート上の巨大メガムリオンの掘削の実現に向けて前進~」

2022/8/29 プレスリリース「【速報】日本人の最深潜航記録を60年ぶりに更新~小笠原海溝最深部9801m(暫定値)にフルデプス有人潜水船リミッティングファクター(Limiting Factor)号で潜航調査~」

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