No.55 町田 洋 准教授
Researchers'
大学院生命農学研究科
No.38 山崎 真理子 教授
木材は、森と街を繋ぐ材料です。
森も街も数十年から数百年を超えるオーダーで育ち、社会を構築します。
森林・木材・建築物と向き合うとき、当時の地域の営みを学び、苗木を植えた先人や建物の建設に携わった先人の心に思いを馳せる。木材は時を越えてこうした機会を私たち現代人に伝える存在であり、私たちはその機会を未来へ繋ぐ。木材工学とは、健全な森林を育み、人間社会を豊かなものにするために、いかにして木材を私たちの日々の営みに取り入れ、活用するかを考える学問です。常に歴史と未来への責任を感じながら、学問を深めるために、「温故知新」を大切にしたいと考えています。
現在、環境問題は深刻化し、人間社会も多くの難しい課題を抱えていますが、この難局を力強く乗り越え、少しでも前進した未来を創るために笑顔を絶やさず研究・教育に邁進したいです。そんな日々を送れることに感謝しています。
木材工学(Timber Engineering)です。
木材の中でも、主に人工林で生産された建築用材を対象に力学的観点から利用の在り方を研究しています。例えば、樹木は生物ですから個体間で力学性能が異なります。さらに建築用の木材はその樹木の一部を製材することで生産されますが、1本の樹木内部でも力学性能が異なっており、またどのように製材するかということも、製品である木材の力学性能に影響します。私の研究では、こうした力学性能の分布を調査し、なるべく多くの木材を利用できるような建築物を考えています。また、人工林の樹木は、使わなすぎても使いすぎても森林環境を悪化させます。木材を受け止める建築物も、数十年から百年オーダーで街のプレーヤーであり続けます。「今」だけではなく数十年、数百年のスパンで需給バランスを検討することが極めて重要だと考えています。 樹木は成長期に光合成によって大気中の炭素を固定し、木材は燃やされない限り、その炭素を地上に貯蔵し続けます。木材を建築物で使うことは二酸化炭素の排出削減対策の一策であり、最近では世界中で木造建築が再認識され、新しいスタイルの木造建築が生まれ、技術革新が進んでいます。このような木材利用の価値を高めるためには、建築物の長寿命化が重要な課題となります。私の研究室では、木部材の耐久性を評価するために20年前から古材の力学研究を進めており、様々な負荷モードで実験を行っています。さらに、建築物に利用されている状態で評価する測定方法も開発しています。
兵庫県出身なのですが、異人館や学校の中で使われている木材に興味をもち、木材科学を勉強したくて農学部林産学科に入学しました。研究室に入ると、メンバーが皆いつも、木材を相手になにがしかの力を与えて変形挙動を測定していました。右も左もよく分からないまま私も実験に取り組んでいましたが、ある時急に木材の力学試験が楽しくて仕方がない感覚になり、憑りつかれたという印象です。木材は個体間、個体内で力学性能が分布しますので、試験体の1つ1つがちょっとずつ違う挙動を示します。でもその挙動が確からしい結果であるためには、もちろん確かな実験技術が必要で、少しでも隙があれば実験結果は木材の性質ではなく、自身の実験エラーということになります。試験体1つ1つに真剣勝負で実験を行って初めて、実験結果のバラツキの原因、つまり木材の力学挙動のメカニズムを考えることができる。さらに、解析では様々な材料学にヒントを探しながらトライ&エラーを重ね、1年に数回、なにがしかの木材の声を聴けることがあり、物言わぬ木材と繋がった感覚を得られる。その瞬間が大切になった、ということでしょうか。
常に面白いと思っていますが、強いて言葉にするならやはり「木材と繋がった時」です。この実験をやればこの結果が出る、というのは当たり前。研究の場合は、見えなかった何かを掘り当てることが醍醐味だと思います。例えば、古材の研究をしていて、「古材ってこういうもの」という何となくの印象通りの結果が出ることも多いですが、時には「こんな挙動をするのか!」ということもあります。これまでの知見と照合して両者を満足できる仮説を検討しますが、そうした時間は楽しいですね。
工学系、農学系、理学系の様々な研究者が、脱炭素社会に貢献するためのそれぞれの取り組みを集結させ、1+1=3以上の知恵を生み出すセンターです。普段はなかなか知ることがない異分野の取り組みと触れることで、脱炭素社会に向けたイノベーションが起きるのではないでしょうか。また、学内にとどまらず、企業や行政とも繋がっていきますので、研究成果の社会実装、社会還元の窓口としても大いに期待しています。
※名古屋大学未来社会創造機構 脱炭素社会創造センター
https://www.zcs.mirai.nagoya-u.ac.jp/
脱炭素社会の構築は、地球号に住まう人間社会の未来にとって「なさねばならぬこと」です。
その未来は、いま私たちが普通だと感じている社会からは大きく変革するでしょう。地球環境にとっても、人間社会にとっても豊かな未来を創るチャンスです!自分たちの笑顔、次世代のこどもたちの笑顔が輝く社会とはどんな社会か。「当たり前」にとらわれず、柔軟な発想で輝く未来に向かって、着実な一歩を歩み続けてほしいと思います。
大学院生のころはエアロビクスに熱中していて、研究室にいるかスタジオにいるか、という毎日でした。音楽に合わせて身体を動かすと、心身ともにリフレッシュできていました。スポーツクラブでは様々な世代や職業の人とも親しくさせていただきました。みなさん、今でも大切な友人です。学外の多様な方々と繋がれたことは貴重な経験だったと思います。
今の趣味は和装、観劇、手芸で、どちらかというとインドア派かもしれません。今年のマイブームは手編みの靴下です。大型休暇はどこにも行かずに制作に没頭、なんてことも良くあります。一方で、休日に限らず、通勤途中でも空の色に季節を感じるとリフレッシュします。天気が良ければ、街を散策するのも好きです。その点ではアウトドア的気質があるのかも。太陽の光を感じて、風や雨の音を感じて、庭の緑や土のにおいを感じて過ごす時間を大切にしたいですね。
院生時代から保護猫を飼育していますが、日がな一日猫の動きを眺めていても飽きません。彼女たちの人づきあい・猫づきあいから人生を学ぶことも多いように思います。
建築活動は人間社会において必要不可欠であり、決してなくなることはありません。その活動は、膨大な資材とともにあり、地球環境に影響を与え続けます。
木材は、建設活動が地球環境の持続可能性に及ぼす影響を少しでも好ましいものとするための重要な材料です。もちろん、建築材料として利用できる木材は、循環性を担保した森林管理の下にある人工林で生産されたものです。日本には国土面積の約1/4に及ぶ人工林があり、その価値は忘れられがちですが、実のところ世界の人工林率はわずか7%なのです。貴重な生産の場をいかに活用し、循環させ、未来へ繋ぐか。そのために建築物はどの程度のサイクルで運用されるべきか。今の日本の人工林は決して健全な状態とは言えません。荒廃が進んでいますし、林業、林産業に携わる技術者も少なくなってきました。循環利用の危機が迫っています。私たちの研究・教育を通じて、木造建築をはじめとする木材利用を促進し、人工林との綿密な循環性を構築し、クールな森林資源産業の創出に貢献したいと考えています。
氏名(ふりがな) 山崎 真理子(やまさき まりこ)
所属 名古屋大学大学院生命農学研究科
職名 教授
略歴・趣味
名古屋大学農学部、大学院生命農学研究科で学び、「複合応力下における木材の力学挙動に関する研究」で博士(農学)取得。名古屋工業大学で建築環境工学を学び、「解体木材のリユースシステム構築に関する基礎研究」で博士(工学)取得。
岐阜工業高等専門学校建築学科助手を経て、現職。
趣味は、手芸、観劇、読書、猫と遊ぶ。