No.54 金森 亮 特任教授
Researchers'
大学院多元数理科学研究科
No.44 松尾 信一郎 准教授
数学者の岡潔先生が文化勲章を受章されたとき、昭和天皇に「数学とはどのような学問ですか?」と問われて、このように答えたそうです。状況も表現も内容も全てがカッコいい。私もこんな言葉を残せるようになりたい。それがこの言葉を選んだ理由です。
数学がこんなにも素晴らしいのは、私たちの生が煌めいているからなのです。
私の人生の三大テーマは「無限・空間・複雑」で、大きな枠組みとしては「無限次元空間の複雑さ」を研究しています。
現在の具体的な目標としては、敢えて正確に述べれば、ザイバーグ=ウィッテン理論の真の有限次元化を目指しており、格子ゲージ理論のアイデアを学びつつ、ディラック作用素の離散化を研究しています。こんなことを言われても謎の単語の羅列だとは思います。ざっくり言えば、無茶苦茶に折れ曲がった図形を微分と積分を道具として調べているということです。しかし、数学には「単純化したら台無しになってしまうリアリティ」があり、私はそれを尊重したいのです。
数学を研究しようと思い立った日時はピンポイントで特定できます。一九九八年一月一日の午前零時です。
中学三年生も終わりかけの年明けのことで、みなとみらいのランドマークタワーの一階の床で初日の出を眺めるための長い列を友人と待っていました。最初は夜中の外出に興奮していろいろ話していたのですが、次第に話も尽きたので床に座って本を読んでいました。私が読んでいたのは,図書館でなんとなく選んだ現代数学の入門書です。その本ではカントールの対角線論法というものが紹介されていました。カントールが喝破したのは無限には無限の階層性があるということで、数学が無限を包容する画期となった仕事です。その内容に興奮して友人にまくしたてたことを覚えています。ただ、証明されたことの素晴らしさだけではない何かがあるとも感じていました。そして、新年を迎え、横浜港で一斉に汽笛がなり、その瞬間に私は数学を研究することを決意したのです。
この問いへのよくある答えは、誰も知らなかったことを初めて知ったときというようなものだと思いますが、全く共感できません。私にとって、研究はツラいことばかりで、面白いと思った瞬間は一度もありません。ただ、誤解を生まないように強調しておきたいのですが、ツラいことは嫌なこととは違います。研究が嫌だと思ったことも一度もありません。
私にはどうしても知りたいことがあるだけで、前人未踏だろうが既に踏破されていようが関係ありません。私には問いがあり、昔は勉強すれば答えはわかったのに、今は誰も答えを知らないので、自分で研究しているのです。
修行僧に苦行が面白いと思った瞬間はどんな時ですかと問うでしょうか。私たちは犀の角のようにただ独り歩み、人類の知性のエッジを垣間見るのです。それはツラい道程ですが、しかし、生命の燃焼で煌めいています。
まず言っておきたいことは「数学はとてつもなく難しいものである」ということです。私もずっと数学を勉強していますが、論文や教科書を読んでもわからないことだらけです。そこで、「弱気にならずに一緒に頑張ろうぜ!」というのは一つの助言です。
ただ、数学のわからなさというのは、人を突き放すような冷たいわからなさです。だから、何をどう頑張ればいいのかすらわからなくなってくることもあります。そういうときは、定番の問題集の問題と解答の両方を何度も丸写しして、じっくり分析してみましょう。
などをじっくり考えるのです。解答だけではなく問題もちゃんと分析するのが大切です。結構時間がかかります。しかし、学問に王道はありません。
修論の締切の数日前に扁桃腺が腫れて入院しました。なんと修論の提出もその後の学振の手続きも全てを指導教員に代行していただきました。一筋の光明として、修論そのものは完成しており指導教員に送ってありました。高熱で朦朧とする中、ガラケーで必死にやりとりしたことを覚えています。指導教員には数え切れないほどのご恩を受けていますが、その中でも一番恐縮する思い出です。
何が起こるかわからないのが修論提出です。
大変にありがたいことに、人生で一番やりたいことが数学の研究で、仕事も数学の研究なので、平日と休日を分けるという感覚があまりありません。
しかし、365日24時間ずっと研究ばかりできるかといえば、もちろん全くそんなことはありません。私の場合夕方のあるところで集中力がパタッとゼロになってしまいます。その日のエネルギーを使い切ったかのように突然全然何も考えられなくなってしまうのです。そういうときは、ビールと日本酒かワインを飲んで、おいしいものを食べて、お笑い番組を見て、翌日への英気を養います。
これからもずっと研究と勉強を重ねて、人生の最後に一番賢い状態でいたいです。
氏名(ふりがな) 松尾 信一郎(まつお しんいちろう)
所属 名古屋大学大学院多元数理科学研究科
職名 准教授
略歴・趣味
1982年5月12日生
2001年3月麻布高校卒業
2010年3月東京大学大学院数理科学研究科博士課程了修了
2012年4月大阪大学大学院理学研究科数学教室助教
2016年4月から現職
私はカオスにコスモスを見るのが好きです。だから家事で一番好きなのは部屋の掃除で、収納グッズの研究にも余念がありません。