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Researchers'

VOICE

No.48 岩井 一正

My Best Word:

 

飛び立ててから着地のことを考える

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

実際にそんなことをしたら大怪我をしそうな表現ですが、研究活動ではまずは行動を起こすことを意識しています。最先端の研究では、あれこれ考えても結局やってみないと分からないことも多く、まず自分なりに手を動かすことで打開できることもあります。たまにサクッと飛び立ててしまうと、どうやってこの研究を着地させるか、飛びながら陸地を探すことになってしまう場合もありますね(笑)。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

宇宙空間の研究をしています。実は宇宙空間は真空ではありません。太陽からは常に電離した大気の一部が太陽風として流出していて、とても希薄ですが、宇宙空間を満たしてます。この太陽風を地上から電波望遠鏡で観測しています。私たちの研究室では日本最大級の大型電波望遠鏡を所有しており、毎日太陽風の変動を観測し、そのデータを用いて太陽風や宇宙環境がどのように変化するのか研究しています。また並行して次世代の観測装置の開発を進めています。

 

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地球に迫り来る太陽風を電波観測する模式図

Q:先生の研究は、私たちの生活にどのように関わっているのでしょうか。

近年、宇宙開発は急速に進んでいます。太陽表面で爆発現象が起きると太陽風の激しい擾乱(じょうらん)現象「太陽嵐」が発生します。太陽嵐は地球に到来すると情報通信衛星など宇宙空間に進出した社会インフラを破壊して、私たちの生活に影響(例えば位置情報にずれを生じさせる、無線通信が繋がらなくなる、といった)を与えます。そのため太陽風の擾乱やそれに伴う地球環境の変動を予報する「宇宙天気予報」の重要性が近年高まっており、私たちの電波望遠鏡を用いた太陽風観測ではこの太陽嵐の到来を事前に察知することができます。更に私たちは太陽風の観測と並行して観測データを用いた太陽嵐の予測システムの開発を行なってきました。私たちの観測データや予測システムの一部は日本の宇宙天気予報で実際に使われていて(ほとんど知られていないのが残念ですが)、人工衛星や極地方を通過する航空機の運用の参考情報になる等、実は多くの人の実生活に役立っていて、これからますます重要になるんですよ。

 

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長野県木曽にある大型電波望遠鏡の前で

Q:研究の道に進んだきっかけは?

明確なきっかけを定義するのは難しいですね。研究をやってみると面白いからもう少し続けてみようと思って修士・博士・ポスドクと続けて今に至ります。その時々の研究対象も、自分で始めたもの、指導教員に進められたもの、ポストに付随するもの、と様々ですが、やってみると、どの研究対象も面白いと感じるのです。自然科学はどれも不思議に満ちているので、仮に現在の専門の宇宙関係のことをしていなくても、研究の道に進んでいたかもしれませんね。

 

Q:研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか?

以前やっていた別の研究で得られた知識や技術や人脈を活かして、新しい研究課題で成果が出る時です。私は大学院を修了した後や、名大で教員になるタイミングで研究課題が変わっているのですが、自分にとって新しい課題でも以前の経験を活かしたアプローチをすることで、その研究を長くやってきた人たちとは異なるオリジナルの成果が出せた時は研究を特に面白いと感じます。

 

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研究室のメンバーとの集合写真

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研究室のメンバーの意見を取り入れながら研究を進めることもよくあります

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

現在の研究を始めたのは名古屋大学に着任してからです。自分の中では対象も手法も新しいものでした。着任最初の年は基礎知識がほとんど無い状態でまずは学生に戻ったつもりで勉強を始めたのですが、いきなり教える立場でもあり大変でした。当時の関係者には申し訳ないです。ただ当時必死に勉強した経験はその後の研究活動に大変役に立ちました。

 

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名大に着任した年から毎年願掛けとして購入している「なごみ桜」

もうすぐ7本目がやってきます

Q:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

長らく研究者たるもの休日関係なく研究に没頭すべきであると思って生きてきましたが、最近結婚してからは家族との時間を大切にするようにしています。妻と美味しいレストランを開拓するのが最近の休日の過ごし方ですね。あとはプロバスケットボールBリーグの地元チームを応援していて、試合観戦もいいリフレッシュになっています。

 

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

現在提案している大型プロジェクト「次世代太陽風観測装置」計画を実現させることです。この計画は最先端のデジタル信号処理技術を搭載した国内最大級の電波望遠鏡を開発し、現在の10倍の太陽風観測性能を実現するという野心的な計画です。実現すれば宇宙天気予報の精度を地球の天気予報並みの水準にまで飛躍的に向上させることも夢ではありません。宇宙開発や宇宙旅行がもっと身近になる近未来に、日本中・世界中の人々に独自の太陽風観測を用いた宇宙天気予報を提供し、社会に貢献したいです。

 

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氏名(ふりがな) 岩井 一正(いわい かずまさ)

所属 名古屋大学宇宙地球環境研究所

職名 准教授

 

略歴・趣味

福井県越前市(旧武生市)出身。2012年、東北大学大学院理学研究科博士後期課程終了。博士(理学)。国立天文台野辺山太陽電波観測所、情報通信研究機構、米国国立電波天文台を経て2017年4月より現職。趣味はバスケットボール観戦で名古屋ダイヤモンドドルフィンズを応援している。

 

 

【関連情報】

研究者総覧

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