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VOICE

大学院情報学研究科

No.53 藤井 慶輔 准教授

My Best Word:

 

好奇心と挑戦、そして諦め

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

これまであまり考えたことはなかったのですが、スポーツ科学からAIに好奇心に基づいて研究分野を変えたという自分の人生を振り返って、最初に好奇心を入れました。ただ、内的な好奇心だけではそれを表現するには不十分で、研究者として、何か大きな課題に挑戦したいという気持ちが常にありました。一方で、大きすぎる課題に対して、どうにもならないから諦めざるを得ないという感覚も、何度も味わってきました。ただ、諦めた瞬間に別の角度からアイデアが出てきたりして、また挑戦が続けられる、ということも繰り返し経験してきました。挑戦と諦めは相反するように思えますが、何かこだわり過ぎていた方法を諦めることで、もともと挑戦したかったこと自体は諦めずに、改めて前向きになれる、ということはよくあるように思います。この言葉を思いついたのは、前のめりになりすぎず後ろ向きにもならないように、というスタンスが好きだからなのかもしれません。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

スポーツなどの複雑な運動に関する人工知能技術に関する研究をしています。今では様々な領域で活用されているAIですが、スポーツなどの複雑な身体運動や集団の運動の世界は、言語化や記号化が難しく、人間が映像を目で見て主観で分析するのがまだまだ主流です。私たちの研究室では、映像からの自動データ取得、機械学習による予測に基づく自動評価、シミュレーションによる最適行動の提案などの技術に関する研究を行うことで、メジャーなプロスポーツや世界大会だけでなく誰もが容易に、上手な動きを理解し、楽しめ、実行できる世界を実現したいと考えています。

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サッカーにおける映像から選手の行動を分析するまでの一連の流れを示す

(上)まずは映像から選手の位置やパスなどのイベントを抽出する

(左下)選手の位置をフィールド上の座標で表す

(右下)選手の行動の価値を推定し、この場面の選手Aではパスの行動価値が最も高いと推定された

Q:研究の道に進んだきっかけは?

私は小学校から大学までバスケットボール部に所属していたくらいスポーツが好きなのですが、それと同時に、まだ誰も明らかにしたことのないことを解明する科学の世界にも興味がありました。大学の学部生の時に配属された研究室では、スポーツ科学について研究できたのですが、少し調べてみたところ、実験科学の方法論と自由に動くことのできるスポーツとの間に大きな隔たりがあり、これを解決できることを仕事にできると面白いな、と思った記憶があります。周りに魅力的な博士課程の先輩が多くいたこともあり、学部4年生の段階で研究の道に進もうと決めました。

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研究室の学生達とバスケをすることも(一番左が藤井先生)

Q:研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか?

まだ誰も実現していないことを実現するための計画を立てたり、実行したりするプロセス全般と、うまくいかない時も含め、自分の予想が裏切られた時に研究が面白いと感じます。最近は学生と一緒に研究することが多いですが、一緒に問題を考えたり、自分にない発想を学生が出してくれたりしたときに面白いと感じることが多いです。

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研究室の様子

Q:日々変化・成長するデータサイエンスを扱う先生から、情報社会で生きていくヒント、アドバイスをいただけますか。

好奇心を持ち続けること、基本的な原則を大事にすること、少し難しいと思っても思い切って挑戦してみること、などがあると思います。まずは「こういうことができると嬉しい」という好奇心から始まるかと思いますが、同じことを考えている人はいないか、どこが難しいのか、などと深く掘り下げて調べたり考えたりすることは、好奇心を持ち続けることができればそこまで大変な作業にはなりません。とは言っても、現代社会では様々な情報にあふれているため、調べるだけでも多くの時間が過ぎてしまうということがあると思います。そこで多くの人が考えてきた教科書的な原則を参照できると、やるべきことが絞られてくると思います。あとは、自分には難しすぎると思って諦めず、思い切って挑戦してみるということで、新しい世界が見えてくると思います。時には難しいこともあるかもしれませんが、私の研究もこの「好奇心と挑戦、そして諦め」のプロセスの繰り返しです。

 

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

将来どこかで研究者になるのだろうなと思っていたのですが、このAI分野だとは学生時代思ってもいませんでした。学生時代は「正確なデータを、手間を掛けて取得すること」が特に評価される分野にいたのですが、博士研究員時代に「大量のデータで学習されたAIが人間の能力を超えることができる」ことが有名になり、幸運なことにAI分野の仕事を優れた研究者の方々と一緒に始めることができて、現在に至っています。将来のキャリアを考えることは重要だと思いますが、特に新しい分野は予測できないことも多いと思いので、決めつけすぎなくても良いのかなと思います。一方、あまり関係ない前の分野の仕事も間接的に評価してもらえることが多く、(分野を変えることになっても)成果を出すことは無駄にならず、その点も良かったと思います。

 

Q:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

昔はバスケットボールをすることがリフレッシュになっていましたが、息子が生まれてからは、休日はよく家族で過ごしています。最近では一緒にゲームをしたり、外に出て自転車の練習をしたり、プールや海に行ったりなど、身体を一緒に動かすことも多いので、リフレッシュになっています。健康維持の筋力トレーニングは、週2,3回程度自宅でしています。

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三重県の御在所岳山上公園にて妻が撮影。6歳の息子もはしゃいでいた。

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

現在は様々な本を執筆中なのですが、これまでより多くの人に、この面白い分野のことを知ってもらう活動をしたいです。様々なスポーツチームなどとの共同研究や、国際的な活動も増やしていきたいと考えています。研究においても引き続き、多くの人がAIをスポーツに使えるようにするための技術を開発していきたいです。

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氏名(ふりがな) 藤井 慶輔(ふじい けいすけ)

所属 名古屋大学大学院情報学研究科

職名 准教授

 

略歴・趣味

2014年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程にて博士(人間・環境学)を取得後、2014年より日本学術振興会特別研究員PD(名古屋大学総合保健体育科学センター)、2017年理化学研究所革新知能統合研究センターの研究員、2019年に名古屋大学大学院情報学研究科助教を経て、2021年から現職。2020年からJSTさきがけ研究員(信頼されるAI領域)。機械学習と行動科学やスポーツ科学の融合に関する研究に従事。趣味は、身体を動かすこと。

 

 

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