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Researchers'

VOICE

未来社会創造機構モビリティ社会研究所(GREMO)

No.54 金森 亮 特任教授

My Best Word:

 

「負けたことがある」というのが、いつか大きな財産になる

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

学生時代に連載されていたバスケット漫画の「スラムダンク」で、常勝チームが敗戦して退場する際に、監督が選手らにかけた言葉です。試合終了までの息の詰まる状況を、30ページ位、セリフ無しで描かれた後のセリフでもあり、非常に印象に残っています。悔しい経験も糧にする、を教訓にしています。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

まちづくり、特に交通に関する研究をしています。具体的には、人々の交通行動を理解して、より良いモビリティサービスを設計・導入できればと考えています。

例えば、買い物に行く際に"バス"と"自家用車"が利用できる場合、施設の駐車場の有無、バス停から施設までの距離、運賃、乗換回数などの利便性、さらには購入予定の商品の大きさ・重さなどを考慮して交通手段を決定している、と仮定して交通行動モデルを構築します。一人ひとりの交通行動をモデル化し、地域単位で集計すると、調査では観測できない現在の交通状況を推計でき、さらに新たなモビリティサービスが導入されることで所要時間や料金が変化した場合の交通状況も予測でき、導入効果や事業モデルを検討できるようになります。

ここ10年はモビリティサービスを提供するシステム開発の研究にも参加する機会に恵まれ、例えば自動運転システムを活用したモビリティサービスの導入を目指した実証実験を繰返し、利用者・関係者との合意形成やサービス改善を行っています。

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ゆっくり自動運転®の概要

Q:研究の道に進んだきっかけは?

浪人時代に阪神・淡路大震災が発生し、土木工学の分野に興味を持ちました。大学院を修了し、建設コンサルタント会社に就職しました。ちょうど修士論文で研究したモデルが適用できそうな業務を担当したのですが、従来のマニュアルに沿った分析しかできず、研究と実務のギャップが大きいことを経験しました。そんな頃、恩師の森川高行名誉教授と研究室の先輩である三輪富生教授から新たな研究プロジェクトに参加しないか、とお誘いがあり、研究の道に進もうと決心し、会社を退職して博士課程に入学しました。研究成果が実務でも直ぐに使える事例を増やすことが私の研究者としての目標の1つですが、現在は「社会実装」を目指した研究プロジェクトも多く、やりたい研究活動をさせてもらっています。

 

Q:研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか?

関係者と企画・調整してきたモビリティサービスが、実際に導入され、利用者から「ありがとう」、「助かる」などと声がけされる時です。少しは社会貢献できたかなと思います。

 

Q:先生がご所属されている「モビリティ社会研究所」は、「社会的価値」を研究領域として掲げる点が特徴的であり、技術やサービスだけではない、そこから生まれる法制度や社会的受容性(新技術などが理解・賛同を得て受け入れられること)に関する課題解決にも取り組んでいます。先生が現在携わっているゆっくり自動運転®技術を社会実装するあたって、「社会的価値」に関するものも含めた課題を具体的に教えていただけますか。また、その解決に向けてどのように取り組んでいるかも併せて教えてください。

モビリティサービスは、利用者の声(満足も不満も)を踏まえて改善し続けることが重要と考えています。

ゆっくり自動運転®を実装するにあたって、期待ばかりが高かった自動運転技術の現実的な理解を得ること、実証実験を繰返した身の丈にあった技術開発を行うこと、交通事業者を交えて法制度を調整することなど、いくつもの課題がありました。

しかし利用者の声を踏まえた改善を続け、さらに自動運転技術を開発されている赤木康宏特任教授と議論しながら臨機応変に実証実験を企画調整できたことも大きな追い風となり、これらの課題を上手く解決できました。

ゆっくり自動運転®に関する研究活動は、自家用車が使えなくなっても外出でき、日常生活が維持できることを目指して、住民の方々及び支援する行政と密に連携を図り、システム更新とサービス改善ができた事例です。

結果的に高蔵寺ニュータウンで社会実装されたゆっくり自動運転サービス®は、公共ライドシェア(自家用有償旅客運送)の先進事例として、Digi田(デジでん)甲子園2023でも受賞するなど、多くの注目を得ることができました。

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赤木特任教授(左)と共に

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

会社を辞めて博士課程に戻る前年に結婚をしたのですが、結婚時点では研究者を目指すことは全然考えておらず、兵庫県西宮市に生活拠点をつくっていました。そのような状況から1年で引越し・転職と妻にはかなり苦労を掛けました。今年で結婚20周年、何かしなければ!と気が付きました(笑)

 

Q:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

休日は無心で畑や庭の草むしりなど土いじりをしたいのですが、仕事に追われています。最適配車システムや自動運転システムなど、モビリティサービスに関係する大学発ベンチャーの活動に関与させてもらっており、各地から相談を受ける交通課題の解決策やサービス改善方法を仲間と議論しています。交通課題を理解するには現地訪問も重要で、現地のおいしいご飯とお酒も楽しむことも多いです。

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大学発ベンチャー株式会社未来シェアの仲間との写真:前列右から二番目が金森先生

(2024年箱根合宿)

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

現在、名古屋大学COI-NEXT*「地域を次世代につなぐマイモビリティ共創拠点」に参画し、モビリティサービス共創に関する研究活動をしています。今ある技術を活用しながら関係者と企画調整・サービス改善をしていきますが、さらにデータ駆動型のシミュレーション技術を高度化し、推計結果を共有しながら対策の検討もしたいと考えています。また、地域のより良い状況を目指して、交通行動変容を促す仕組み・仕掛けも研究し、社会実装していきたいです。

*名古屋大学COI-NEXT:10~20年後に達成すべき未来の姿(ビジョン)を『みんなの「行きたい」「会いたい」「参加したい」をかなえる超移動社会』と設定し、地域モビリティ関連の先進技術、制度改革、マインドセット変容からなる研究プロジェクト。

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氏名(ふりがな) 金森 亮(かなもり りょう)

所属 名古屋大学未来社会創造機構 モビリティ社会研究所(GREMO)

職名 特任教授

 

略歴・趣味

1975年、岐阜県生まれ。1999年名古屋大学工学部土木工学科卒業、2001年名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修了。建設コンサルタント会社を経て、2007年名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻修了、博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科特任助教、名古屋工業大学大学院工学研究科特任准教授などを経て、2014年名古屋大学未来社会創造機構特任准教授、2023年より現職。大学発ベンチャーの株式会社未来シェア、株式会社エクセイドの取締役。趣味は仕事、酒、温泉、草むしり。

 

 

【関連情報】

研究者総覧

GREMOホームページ

名古屋大学COI-NEXT 「地域を次世代につなぐマイモビリティ共創拠点」ホームページ