2023年1月

総長っていったい何をしているのか、疑問に思っている皆さんも大勢いるかと思います。ここでは、私が日々取り組んでいる仕事やその中で感じたことなどを、自由闊達に紹介していこうと思っています。

 

1月28日

本日は、朝4時にホテル出発でした。時差のおかげで起床については問題なかったのですが、飛行機の中では眠かったです。

ローリイの空港は比較的空いていてチェックイン等はスムーズでした。アトランタで乗り継ぎ、サンフランシスコまで。アトランタまでは1時間ぐらいの短いフライトだったのですが、アトランタからサンフランシスコは5時間近くかかりました。両都市の間の時差は3時間、アメリカの広さをあらためて実感します。

サンフランシスコは、若い頃に2年半過ごしたバークレーのすぐそばで、久しぶりに街を満喫したかったのですが、今回は空港近くのホテルのみの滞在になりました。全く市内に行く機会もないのは残念ですが、次の機会を楽しみにしています。

サンフランシスコでは、名古屋大学全学同窓会の米国支部発足という重要な式典を行いました。2002年に発足した名古屋大学全学同窓会は、国内に4つ、海外には従来はアジア諸国に15ありました。米国支部が全体では20番目、国外では16番目ということになります。支部長は、National Institutes of Health (NIH)で長年活躍されていらっしゃった理学研究科出身の岩浅邦彦様、副支部長がFujitsu Laboratories of America,IncでExecutive Advisorをされていらっしゃる工学部・工学研究科出身の松本均様、そして代表幹事がNU Techの神山和久所長(工学部・工学研究科出身)です。岩浅支部長は、ノーベル賞受賞者の小林誠先生と同期だそうで、当時、博士号を取って大学に教員として就職できたのは物理の同期の20人ほどいる中で小林先生だけだったとのこと、岩浅支部長は、ポスドクとしてカナダに渡り、結局そのまま北米にいることになったそうです。

会には、場所柄、シリコンバレーで働いている人が多かったのですが、老若男女30名近くの参加者が全米中から参加されました。皆さん元気な方ばかりで、勇気ある知識人として活躍されている様が伺えて、非常に頼もしく、ご一緒に楽しい時間を過ごすことができました。今後、この支部が大きく発展していくことを楽しみにしています。

 

全員集合写真

 

1月27日

27日は、挨拶の予定もなく、少しリラックスしていくつかの場所を視察・訪問させていただきました。

これまでも何度か触れさせていただいているノースカロライナ州立大学の中に名古屋大学が新たに設置する拠点Nagoya Global Campusも、その本拠地となる場所を視察させてもらいました。州立大の象徴とも言える巨大なハント図書館のすぐ向かいに、ローレイファウンデーションという組織が所有するスタートアップ支援の建物があり、その一室になります。建物の中には無料のコーヒーマシンや、学生が集まることのできるスペース、プロトタイプを作成できる工作室などが備え付けられていて、環境的には満点の場所です。3月から契約するのはガラス張りの狭い一室ですが、ここからどんどんと育っていって欲しいと思っています。


Nagoya Global Campusの入居する建物の前で

 


水谷副総長、佐宗副総長とともに、Nagoya Global Campusが置かれる予定の部屋にて

 

昼は、州立大の中にあるジャパンセンターにお邪魔して、みんなでお弁当をいただきました。ジャパンセンターの建物は1800年代初頭に立てられた歴史的建造物です。ここで、日本語の教育や、日本からきた留学生との交流などを行っているとのこと、1985年に本学と州立大学が結んだ最初の協定書が壁に架けられているのが印象的でした。日本語の本や侍の鎧兜、日本人形なども置かれ、日本文化紹介の拠点になっています。

なお、センターの職員の長曾我部さんによれば、古い建物だけに、お化けが出るとのこと、ただ良いお化けで、今はすっかり仲良くなったそうです。

午後は、少し特別な場所を訪問したのですが、その話はまた別の機会に。


 
お化けの出るJapan Centerの全景とその前での集合写真

 

1月26日 その3

さて、26日の夜は、今回の訪問のハイライト、NUTechの15周年と、ノースカロライナ州立大学に新たに名古屋大学のキャンパスNagoya Global Campusを開くことの調印式を兼ねた式典とパーティです。

NUTechは、元々は本学の知財を売ることを大きな目的に2007年10月に設置されました。神山所長の尽力もあり、現在では、本学の学生のノースカロライナ訪問の窓口になるだけでなく、米国全体を担当する事務所として機能しており、名古屋大学の国際化に大きな役割を果たしています。私としても、博士課程リーディングプログラム「PhD登龍門」の学生の研修受け入れを長年に亘ってお世話いただいた本当に恩のある組織です。

午前中に会談を行った学生会館で式典・パーティは執り行われました。アトランタからは前田総領事にお越しいただき、チャペルヒル校からも副学長らが参加してくださって、部屋に入りきれないぐらいの大盛況でした。アトラクションは餅つき。州立大のワーヴィック・アーデン筆頭副学長(プロボスト)には調印式でのサインだけでなく、先立って素晴らしい挨拶もいただきました。

 


ワーヴィック・アーデン筆頭副学長と、
NAGOYA Global Campusを開設することの協定書にサインをしました

 

アーデン筆頭副学長と共に、アトラクションの餅つき

 

1月26日 その2

さて、昼食後、ノースカロライナ州立大学を後に向かったのが、ノースカロライナ大学チャペルヒル校。全米の公立大学の中で最古の歴史を誇るトップランク研究大学です。ノースカロライナ州立大学機構の一員なので、州立大学チャペルヒル校という名前でよさそうなのですが、最初の学校であることのプライドがあり、州立大学と呼ばないというこだわりがあるのだそう。チャペルヒル校は、州立大とは違って医学部を持つのが大きな特徴で、その点では本学と似ているかもしれません。

 

こちらもパナマ大使の経験があるスティーブンソン副プロボストを筆頭に、研究担当や国際担当、医学部長など、トップマネジメントに携わる多くの人が集まって出迎えてくれました。州立大学に比べれば、これまでの交流実績は小さいのですが、これからどんどんと発展していく可能性を感じました。すでに、本学が中心となって東海地区18大学が集まって実施している企業のための教育と支援プログラム「Tongali」の学生を受けいれてもらう計画や、医学系研究科を中心とした卓越大学院プログラム「CIBoG」では今回の会談に参加いただいた日本人教授がいらっしゃる生命工学学部への学生派遣計画など、いくつか具体的に計画も動き出しています。

 


ノースカロライナ大学チャペルヒル校の幹部と記念撮影。
私の向かって右隣が、スティーブンソン副プロボスト。

 

チャペルヒル校で伺った中で印象深かったのが、校内にある低い石の壁の話でした。学問領域の間の壁に見立てて、それを乗り越えていくことの象徴に、低い壁を立てているのだそうです。

 

ノースカロライナ大学チャペルヒル校の石垣

 

1月26日 その1

今日は、1日大忙しでした。

まず、朝からランチタイムにかけて、ノースカロライナ州立大との連携の打ち合わせを行いました。今年の3月から大学のキャンパスの建物(産学連携関係になります)の一室を借り、NAGOYA University Global Campusとして、教職員や学生交流などの拠点とすることも決まっていますので、今後さらなる連携を進めていくための起点となる話し合い、という位置づけです。先方は学長(日本でいう理事長的な職)、プロボスト(日本の学長相当)、研究担当や国際交流担当などの副学長たち7名、というオールスターキャストで対応いただく予定で、こちらも私以外にも国際担当の水谷副総長、産学連携担当の佐宗副総長の3名で向かいました。会談の場所は寄付によって建てられた同窓生会館。池の前に建っていて、ゴルフコースが目の前だそうです。さすがアメリカ、広大な敷地と重厚な建物に圧倒されます。池の前での写真は、名大に何度もいらっしゃっていて、とてもお世話になっている、バイリアン・リー副学長とのツーショットです。

 

同窓会館到着後に階段で撮った写真も一緒に掲載します。残念なことに学長はギックリ腰を拗らせたようで病院にいる、ということで不参加でしたが、プロボストの方にしっかりと会議を仕切っていただきました。10兆円ファンドの話やスタートアップの取り組み(佐宗副総長が担当)などをこちらからは説明しました。

先方の話の中で一番興味を惹かれたのが、「アカデミー」という新しい仕組みです。従来の部局の枠を超え、トップダウンでテーマを決めて、教員や学生に参加してもらい、そこには研究のシーズとなる予算を措置し、大きな共同研究に育てるというものです。すでに、データサイエンス、遺伝学とゲノム、グローバル・ワン・ヘルスという3つのテーマで動き出しているとのこと、最後のものは農学・獣医が強いので、植物、動物、そして人間の健康の増進を一つにまとめて考えるというものだそうです。東海機構・岐阜大学でも似たような取り組みがスタートしていますので、興味深く聞きました。

アカデミーの考えは、本学の高等研究院が20年ぐらい前から進めている活動と似ている点もあるのですが、はるかに大きな規模で、ガッチリとテーマを決めてやっているところが大変参考になりそうです。

 

1月25日

今日から四泊六日の日程で、アメリカ出張です。寒波の襲来、前日の強風で心配しましたが、若干の遅れはあったものの無事飛行機は飛び、羽田からワシントン経由で、ノースカロライナ州のローリー・ダーラム国際空港に到着しました。今回は、当地にあるリサーチ・トライアングルと呼ばれる広域学術都市圏にある3つの主要大学のうちの2つ、ノースカロライナ州立大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校を訪ね、今後の強力な連携を進めるための話し合いと協定書の調印式を行うことが目的です。また、当地に名古屋大学が設置しているNU Techという組織が設立15周年を迎えたことを祝うのも目的の一つです。

出張の中身については、これからまた書いてきますが、今日はもう少し旅のことを。日本からアメリカの飛行機は半分ぐらいしか埋まっていませんでした。まだまだCOVID-19で海外に行くことを控えている人が多いのか、会議の多くがオンラインで済むようになったので出張が減ったのか分かりませんが、それでもアメリカのANAのスタッフは90%ぐらいまで回復したとも言っていました。アメリカ国内の乗り継ぎ便はいっぱいだったので、日本が少し遅れているだけなのかもしれません。

現地と日本の時差は14時間、つまり東に進んだので10時間分進んでいるけど1日前、ということになります。この時差は、昼間眠くなって夜寝られなくなる、というキツイやつで、基本的には時差は東に進む(日本->アメリカ)方が、西に進む(日本->ヨーロッパ)より修正するのが難しいというのが体感です。

到着した晩は、旧知のノースカロライナ州立大の方々が、アメリカらしくステーキハウスで歓待してくれました。国際担当の水谷副総長の注文したステーキが巨大でびっくりでした。写真を撮り損ねた、残念!ペロリと食べしまった水谷さんに感服です。

ノースカロライナは雨でしたが、日本に比べ暖かく、雪を心配していたので、一安心です。

明日は、訪問・式典関係で一日忙しくなります。

 

1月23日

今日は早朝から東京に移動、ホテル椿山荘で、日印大学等フォーラムに出席してきました。インドの10大学の学長・副学長が来日し、日本の19の大学、3つの機関の代表者が対面でのミーティングを行う、というもので、お互いの活動を知る本当に良い機会でした。

朝9時半からインド工科大学デリー校と、10時半からは同じくマドラス校との1対1のミーティングを持つことができたのもとても良かったのですが、その代償は朝5時起きでした。新幹線で寝られたので何とか1日持ちましたが...

名古屋大学は、これまでアジアとの連携を強力に進めてきていたのですが、じつはインドとの連携はまだまだなのが実情です。例えば2021年度の留学生の総数は2,386で、中国からは1,352名もの学生が来ているのに、インドからはわずか29名です。今年には中国を抜いて世界一の人口になるインドからにしては、あまりに少なすぎませんか。

なぜ少ないのか、インド側の学長たちからは、宣伝が足りない、日本の大学が欧米に比べてより魅力的であるように見えない、卒業後の進路が示せていない、などの辛口のご意見が寄せられました。インドの最大の留学先はアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダの順です。これらは、もちろん英語が母語の国であり、英語をヒンディーと並んで公用語とするインド人が選ぶ留学先として選びやすい国々です。これらの国ではなく、日本、そして名古屋大学を選んでもらうには、ひと工夫もふた工夫も必要になります。学部の若い学生にとっては、日本の文化、特にアニメやマンガなどがキラーコンテンツになるでしょう。名古屋大学のG30のように英語のみで教えるプログラムも重要です。私の研究室にいた二人のインド人もG30に所属し、マンガやアニメが大好きでした。

一方で、大学院生を引きつけるには、高い研究レベル、しっかりとした財政的支援、修了後の就職先の斡旋、などが必須だと思います。インドに展開を希望している中京地区の企業にしっかりと紹介できれば、本学がとても魅力的に見えてくるかと思います。

インドからの留学生や、インドの大学との共同研究は、名古屋大学にとってフロンティアです。これからは、積極的にインドの大学と連携していこうと思っています。

ちなみに、会場の椿山荘は、明治の元勲、山縣有朋の屋敷だったところで、都心にあるとは思えない広大な敷地に美しい庭園のあるところです。

 

1月20日

本日は、野依先生にある件をお願いするのにお会いしました。お願いした件については、後日のサプライズ、ということでここでは伏せておきます。

野依先生はノーベル賞を受賞された卓越した研究者であるのはもちろんですが、理化学研究所の理事長を12年もの間に亘って務められ、教育再生会議の座長など政府関係の委員も数多くされるなど、学術行政の中枢にいらっしゃる方でもあります。

事務の方2名と伺ったのですが、二人は野依先生から、「君たち事務職員は、教員を補助する、なんて考えではダメだ、教員をリードして提案していく存在でなければならない」という厳しい檄を飛ばされていました。事務職員に大きな期待を寄せているからこその檄だと感じました。

国際的には、事務職員や技術職員、さらにURA(リサーチ・アドミニストレーター)といったいわゆるサポートスタッフの役割の重要性が認められているところで、大規模研究大学では、教員と同数か、教員以上のスタッフを抱えています。翻って、名古屋大学では、教員が2300名、支援職員が1700名程度と、後者は前者の3/4しかいません。

今後、名古屋大学が発展していくためには、この点をなんとかしないといけないと思っています。野依先生が、いみじくも「教員は研究以外は何のトレーニングも受けていない。いわば無免許運転の状態で、プロジェクトや大学の運営に携わっている」、とおっしゃっていました。

名古屋大学が、これからどんどんと新しいプロジェクトに取り組んで、発展していくためには、高いレベルで活躍するサポートスタッフの力が必要不可欠です。是非ともサポートスタッフの強化をはかっていきたいと考えています。教員・サポートスタッフが手を携えて、名古屋大学の未来を切り開いていきましょう。

 

1月18日

今日は、齋藤健法務大臣が本学を視察に訪れました。お目当ては、法政国際教育協力研究センター(通称CALE)です。

CALEは今から21年前に設立されました。アジア諸国、特に旧ソ連の影響の大きかった国々に対して、法整備の支援を行うことがミッションです。現地の法学関係のトップ大学と組んで、その大学に日本法教育研究センター(CJL)を設置、そこでは、1、2年生の間は日本語をまず学び、そして、3、4年生になると日本の法律を日本語で学びます。これを現地の大学の通常のカリキュラムに加えて学んでいくのですから、とてもハードで、必然的に卒業生は非常に優秀です。彼ら・彼女らは現地で法律家として活躍する人もいますが、多くが名古屋大学に留学し、修士または博士を取得、帰国して大学の教員になったり、司法省、さらには国際機関に努めたりしています。現地での高度人材である修了生は、本学にとって本当に貴重な財産です。

現在では、CJLは、ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム(ハノイとホーチミ ン)、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、ラオスの7カ国に設置されています。私はモンゴルのCJLの授業を見学したことがあります。私も知らない難しい法律用語を駆使して発表をする現地学生に圧倒されたことを思い出し ます。

CALEの20周年を迎えるにあたって法務大臣(当時)から特別感謝状をいただいたことから、 そのお礼に齋藤大臣を12月に訪ねました。村上CALEセンター長、松尾CJLセンター長、両センターの副センター長を務める牧野講師、そして留学生4名という陣容でした。その時に目にした留学生の素晴らしさに齋藤大臣が感動して、今回の本学訪問の運びとなったとのことです。

今回は、ウズベキスタンのCJLとオンラインで繋いで現地の学生と大臣の質疑応答を実現、また現地での授業のあり方について講師経験者2名による報告があり、さらに前回のメンバーとは違う留学生や博士号取得後に日本企業に就職した人との交流など、一時間弱の短い時間でしたが、とても盛りだくさんの内容でした。齋藤大臣も目を輝かせ、次々と質問をしていらっしゃいました。今回、齋藤 大臣にはCALE/CJLの活動、そこでの人材育成についてより深く理解していただけたのではないかと思っています。村上・ 松尾両センター長、ありがとうございました。

 

1月17日

今日は、日本経済新聞の「リーダーの本棚」というコーナーの取材を受けました。これまでの読書遍歴と自分の略歴を重ね、特に印象に残った本をあげていく、というような趣旨のインタビューですが、どのような記事になりますやら。

元来私は乱読のたちで、ジャンルや作家をあまり問わず、なんでも読んできました。これは、育った環境のせいかもしれません。父親が文系の研究者だったので、子供の頃は家に本が溢れていて、それが普通だと勘違いしていました。文系の研究者の本の量、というのは本当に想像を絶するものがあり、その重みで家が歪んで、私の部屋の扉など、開きにくくなっていたぐらいです。それに比べると、理系の研究者はおとなしいもので、教科書の類以外では、基本的には論文を読むので、研究に関係して本を買うということは、文系に比べれば、ほとんどない、と言っても良いかと思います。それでも、研究室にある本を定年になったらどうしようか、と今から思案しているぐらいですから、文系の先生方のご苦労はいかばかりかと同情を禁じ得ません。その点では、Kindleなどの電子書籍は嵩張らない、という点でまさに福音ですが、おそらく、多くの先生方はいまだに紙の手触りを大切にしていらっしゃるのではないでしょうか。私も、研究室の若手の教員が、教科書を買うなり裁断しスキャンしてpdfファイルで使用しているのを見て驚愕したくらいですから、紙世代なのだと実感しています。

 

1月16日

本日は、東海国立大学機構執行部のイベントとして、佐野壽則さんの講演会を実施しました。佐野さんは、文部科学省の官僚の方(現在は教職員支援機構に出向中)で、英国の日本大使館に2019年から3年間、一等書記官として在籍をされ、現地の高等教育の分析をされた方です。講演では研究力を中心に英国の大学について、包括的な分析に基づいたお話をいただきました。日本の半分の人口で、ものづくりをやめた国が、論文総数や高いインパクトを持つ論文数で日本を凌ぐような高い研究力を持っている秘密の一端が理解できたように思います。

財政的には、中国からの学生を中心に多数の留学生を受け入れて、国内の学生の3倍の学費を課すことで潤っているとのことでした。一方で、研究力を高めるための工夫は数多くあるのですが、その中で強く強調されていて印象に残ったのが、英国では、研究者がポスドクを終える時期からすぐにPI(主任研究者)として独り立ちをする、大学の教員は身分によらず全てPIである、という点でした。日本では、大規模国立大学の多く(特に理系の学部)では、講座制が敷かれ、教授を頂点に、准教授や助教が支える体制となっています。この日本方式には、集中して一つのテーマにグループで取り組むことで成果を出していきやすい、教授が若手教員のメンターとしての役割を果たす、など良い点もあります。しかし、佐野さんが指摘されていたのは、日本方式では、最も研究に対してアクティブな若手・中堅の時期に自立することが難しくなるため、個人のオリジナルな研究が遂行しづらいこと、また、講座には同じ研究領域のメンバーが集まっているためにそこが固定化され、スクラップアンドビルドによる新しい研究領域への転換が迅速・スムーズに進まないこと、という点が研究の停滞を招いているのでは、ということでした。現代科学のスピード感に、講座制がついていけていないという分析です。この問題を根本から変えることは、これまでの歴史もあるので一朝一夕では難しいのですが、名古屋大学において、まずは若手研究者の自立をしっかりとサポートしていこうと思っています。

大変ためになる講演でした。佐野さん、ありがとうございます。

 

1月16日

先週金曜日に、名古屋大学に嬉しいニュースが届きました。生物機能開発利用研究センターの野田口理孝(のたぐち・みちたか)准教授が、日本学士院学術奨励賞を受賞することが決定されました。この賞は、理系・文系の分野を限らず45歳未満の若手・中堅研究者を表彰する日本学術振興会賞の受賞者のうちで、特に優れたものを6名以内選ぶ、というものです。日本学術振興会賞自体が、研究者の登龍門とでも言える賞ですが、その中で日本学士院学術奨励賞に選ばれるというのは、優れた研究業績はもとより、今後の活躍が最も期待される研究者、というお墨付きをもらったことになります。

野田口さんの研究は、植物の情報伝達機能の研究です。野田口さんが最もよく知られているのは、平安時代からの歴史のある接ぎ木に、革命を起こしたことで、これまで不可能とされてきた科の異なる植物間の接木を、間にタバコ属を接着することで可能とした、というものです。例えば同じウリ科のキュウリとカボチャの接木はあったのですが、ナス科のナスとは不可能とされてきました。野田口さんの技術を発展させれば、カボチャを台にするナスという接木も可能になるかもしれないというのです。野田口さんはまさに、接木のマジシャンですね。

野田口さん、日本学士院学術奨励賞おめでとうございます。今後のますますの活躍を楽しみにしています。

 

1月14日

大学入学共通テストで、大変申し訳ないことに、名古屋大学が試験監督を担当していた会場で、試験が本来より短く終了するというミスがあり、対象の教室101名の受験生が再試験の対象となりました。チャイムが5秒早く鳴ってしまったために、試験監督が終了時間を誤ったということと報告を受けています。人生をかけている試験でミスをしてしまったこと、受験生の皆さんには本当に大きなご迷惑をおかけしました。お詫び申し上げます。再発防止を徹底していきます。

 

1月13日

忙中閑あり

いつも予定表に隙間がない毎日ですが、今日はどういった風の吹き回しか、打ち合わせ・会議が7件程度しかなく、予定表に少し空きがあります。明日からの共通テストに備えて事務の皆さんが準備に余念がないこと、松尾機構長が岐阜大学に行っていることなどが原因かもしれません。とはいえ、溜まった事務仕事を片付け、また、国際卓越研究大学申請に向けたブレインストーミングが少しできたのはよかったです。

共通テストといえば、私の受験は共通一次の2回目に当たりました。もう随分昔のことになりますが、雪が降っていたことを覚えています。共通一次が導入された、ということで、我々の責任ではないのに、マークシート世代と揶揄されました。与えられた解答の中から選ぶことを続けると、ものをしっかり考えなくなる、ということでした。マルかバツか、割り切れないこともたくさんあるのは本当だと思います。

それで思い出したのですが、私の研究分野に関連して、銀河の形を分類する、という仕事があります。銀河の形が丸いのか、円盤状なのか、その程度に応じて、形態分類するわけです。今やビッグデータの時代ですから、たくさんの銀河(100万以上にもなります)の写真がとれた時に、人が目で見て判断するのは大変です。今から20年ほど前、機械学習の前身であったニューラルネットワーク、という手法を使って、自動で形態分類をする、という論文が発表されました。ニューラルネットワークの結果を人間の判断と比べて、使い物になるのかどうか調べた、という研究です。この研究で一番面白かったのは、その人間の方の判断です。アメリカの天文学者は、全ての銀河を何らかの形に分類しました。一方、ヨーロッパの天文学者は、一定数の銀河を、「分類不能」としたのです。文化なのか教育なのかわかりませんが、アメリカはマークシート的、ヨーロッパは記述式的、と言えるのかもしれません。

明日の試験、監督の先生、会場の準備をされる事務職員の皆様、どうかよろしくお願いします。つつがなく、試験が遂行されることを祈っています。

 

1月12日

今朝、新聞報道されていましたが、本学特別教授の岸義人ハーバード大学名誉教授がご逝去されました。理学部、理学研究科の卒業生・修了生で、故平田義正先生の門下生でした。ノーベル賞の故下村脩先生や、コロンビア大学で活躍された故中西香爾先生などと並んで、日本を飛び出し、米国、そして世界で活躍された本学の偉大なる先人であったと思います。 

岸先生は、フグ毒やイソギンチャク類の毒の研究などで、大きな業績をあげられるとともに、抗がん剤の開発など創薬、社会連携の分野でもめざましい活躍をされ、ノーベル賞の候補者とも目されていました。 

岸先生のご冥福をお祈りいたします。 

さて、岸先生をはじめとして、平田研究室からは、なぜ多数の素晴らしい学生が育っていったのでしょうか。平田先生の教育は、選び抜かれた研究テーマを渡した後は、学生の自由に任せたと言います。このような教育方針は、日本の生物物理学の祖とも言われ、育てた弟子の多さ・業績の素晴らしさから、ネイチャー誌のメンター賞にも輝いた故大澤文夫本学名誉教授にも通じるものがあったのかもしれません。弟子を「放牧」して自由にやらせ、外に飛び立っていくことに任せたそのスタイルは、大沢牧場と呼ばれていました。あれこれ細かく指導せず、学生にはできるだけ自由にやらせる、これが秘訣なのかもしれません。一方で、平田先生は、人の目利きにも優れた方であったとのことです。長崎から他の先生に師事しようとやってきた下村先生を研究室に引き入れたことや、野依先生を京大から招聘されたのも平田先生です。金とした目利きに基づいて、大丈夫な人であれば、影からそっと見守りながら、本人の自由に任せる、ということなのでしょう。 

 

1月11日

今日は台湾から、科学技術に関する10名を超える訪問団をお迎えしました。次世代半導体に関する視察と今後の共同プロジェクトを探るという目的で、天野先生らのGaN(窒化ガリウム)プロジェクトを中心に視察、意見交換をしました。団長の国立清華大学(北京にも同名の大学があります)Shawn Hsu博士、天野先生の共同研究者である国立陽明交通大学のEdward Chang博士ら学術界の代表のみならず、産業界からを含めて10名ほどの使節団でした。

かつて、半導体では日本が世界一だったのですが、今や台湾に大きく水をあけられています。GaNSiC(シリコン・カーバイド=炭化ケイ素)という新しい半導体材料の分野で復権を目指している日本ですが、台湾が猛烈な勢いで追い上げてきているという印象を持ちました。一方で、台湾の人は親日家が多いという印象を持っています。できれば、競争相手ではなく、仲間として一緒にやっていければと思っています。

 

 

1月7日

土曜日ではありますが、経済学部の同窓会組織であるキタン会で名古屋大学の現状とこれからの挑戦について、午前に一時間弱、話をしてきました。その後、学生さん10名ほどと懇談したのですが、元気な学生ばかりで、頼もしい限りです。そこでは、イベント情報の共有方法や動画作成などの広報に関するアイデア、学生スタートアップでの文系学生と理系学生のマッチングの課題など、大変有用な議論が出来ました。 

夕方には、Tongaliが名駅コンコースで行っているイベントを見学してきました。新しいボードゲームの考案などのビジネスアイデアに加えて、書き初めやおみくじといった新年イベントもあり、楽しい会になっていました。おみくじを引いたのですが、結果は内緒です。

 

  

1月6日

本日は、愛知県が主導するステーションAiの起工式に出席するために、名古屋市公会堂に行ってきました。地域のスタートアップの一大拠点となるステーションAi、鶴舞公園の一角、図書館の隣に既に建設が始まっているとのことです。そこで、鍬入れ式なるものを体験してきました。ステージ上に土が盛ってあり、そこに鍬を入れる、というパフォーマンス、大村県知事や河村市長、池田衆議院議員、水野中部経済連合会会長らとともに、務めさせていただきました。写真撮影が目的なので、鍬を止めて、あっち向いてこっち向いて、大変でした。

 

 

 

 

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