2023年6月

総長っていったい何をしているのか、疑問に思っている皆さんも大勢いるかと思います。ここでは、私が日々取り組んでいる仕事やその中で感じたことなどを、自由闊達に紹介していこうと思っています。

 

 

6月28日

先週の日曜日から昨日まで、香港で行われていた環太平洋大学連合(Association of Pacific Rim Universities、省略形はAPRU)の学長年次総会に出席し、今日帰国しました。APRUはアジア、オセアニアやアメリカ、中南米のトップ大学の集まりで、テーマを決めて活動を行う他、学長の集まりを年一回持つことが特徴になります。60大学ほどが参加をしていて、日本からは本学の他、慶應大、九州大、大阪大、東北大、早稲田大の6大学がメンバーになっています。メンバー大学の学生総数は200万人、教員は20万人を数えるとのこと、巨大な集まりになります。

今回のテーマは、「持続可能な未来のための解決策」というもので、ホストは香港大学でした。学長が出席した大学だけでも30近くを数え、この機会に私も香港中文大学やシンガポール国立大学など関係の深い大学の学長と、個別に会談を持つことができました。会議は、プレナリートークとパネルディスカッションで構成されていて、私自身は、「地球という惑星に関心を寄せる未来のリーダーを育てる」というパネルに配置されて、名古屋大学の持続可能な発展に関する取り組み、特に教育プログラムに焦点を当てて発表してきました。特に、6研究科が参加しているESDプログラム(持続可能な発展に関する教育プログラム)や、環境学研究科が中心になってやっているNUGELP(名古屋大学国際環境人材育成プログラム)などについて、具体的にカリキュラムまでご紹介をしたところ、高く評価してくれる声も多く、名大のこの分野の宣伝がしっかりできたと思っています。一緒にパネルに上がったのは、タイのチュラロンコン大学、香港科技大学、シンガポールの南洋理工大学、南カリフォルニア大学の学長の皆さんで、そのうちお二人は女性でした。大変活発な議論ができたと思っています。

なお、プレナリートークの一つは、スタンフォード大学のYi CUI教授が行いましたが、これが強烈な内容でした。まず彼は、新しいPrecourt Institute for Energyという組織のトップなのですが、この組織自体、スタンフォード卒業生のプレコート氏からの3000万ドル(日本円にして45億円ほど)の寄付をいただいて設立したエネルギー関係の研究開発のための研究所になります。CUI教授は、電池の関係で画期的な研究をされている方で、研究者としての評価に関係する論文の引用数などが膨大な数であるだけでなく、すでにいくつもの会社を設立して大きな成功を収めており、研究開発から社会連携まで、まさに我々が考えているアカデミックインパクトとソーシャルインパクトの両輪を一人で回している方でした。彼は、社会からの期待をどのようにアカデミアに取り込むか、という点を強調していました。

写真は初日のレセプションでのもので、APRUの全体の長であるUCLAジーン・ブロック学長とのツーショットと、今回のホストである香港大学シャン・ザン学長と南洋理工大学テク・フア・ホー学長とのショットになります。なお、レセプションの場所は、学内にある豪華なプレジデント・ハウスで、ザン学長はそこにお住まいとのことでした。


 

 

 

6月22日

本日は、シンガポール国立大学のスタートアップ(起業)関係を取りまとめているエンタープライズという組織を代表して、担当の准副学長(Associate Vice President)、ベンジャミン・ティーさんが、同僚のフイ・ホン副所長、また、大場優シニア・マネージャーとともに、本学を訪問されました。シンガポール国立大学は、スタートアップに非常に力を入れていて、すでにユニコーンと呼ばれる大きく成長を遂げた企業も10以上あり、愛知県と連携して鶴舞に建設中のSTATION Aiにも、エンタープライズや企業・政府機関が協業して設立したBlock71という組織が入居する予定となっています

名古屋大学としても、シンガポール国立大学を戦略的パートナー大学と定め、スタートアップを中心に強力な連携を図っていくことを決め、7月1日には、シンガポールのBlock71にオフィスをオープンし、教員を常駐させます。ここが受け手となって、学生を派遣したり、逆に名大に学生を受け入れたりするような連携が強力に進むものと期待しています。

ティー准副学長には、今回は短い滞在時間でしたが、名大のスタートアップについて説明し、また、彼の専門と関連する物質・材料科学分野の教員たちとの交流を深めていただきました。

6月21日

本日は、新モンゴル高校の生徒さん11名と引率の先生1名の表敬訪問を受けました。昨晩モンゴルから成田について、バスで名古屋までやってきたとのこと、大変だったと思います。でもさすがに若いからか、疲れを全く見せていませんでした。

新モンゴル高校は日本の学校制度を参考にしたモンゴルのトップ校で、今回訪問してくれた生徒さんたち全員が、英語、日本語ともにかなりのレベルで話せるのには感心させられました。皆さん、医学や心理学、情報、環境など、興味はそれぞれ多様に持っているようでしたが、全員日本の大学へ留学希望とのことでした。名古屋大学に来てくれることを期待しています。

生徒さんたちは、月末まで、姉妹校である名古屋大学教育学部附属高校で学び、また、名大や名古屋の街などを見学したりと充実した日を過ごされるようです。是非、日本、そして名古屋のファンになってまた帰ってきてくれると嬉しいですね。

 

6月20日

本日は、東海国立大学機構の「低温プラズマ総合科学研究拠点」設立記念式典に出席、挨拶をしました。

この拠点は、名古屋大学の低温プラズマ科学研究センターと岐阜大学工学部のプラズマ応用研究センターが東海国立大学機構の下、それぞれの強みを相乗的に活かすために設立したものになります。

プラズマというのは、気体を構成する原子が電離したものを指します。原子は陽子と中性子からなる原子核の周りを電子が回っているのですが、この電子が原子から離れて飛び回る状態、ということになります。電子は負の電荷を持っているので、それが離れた原子核は正の電荷を持ちます。正のイオンと呼びます。気体の温度がすごく高くなると、この状態になるので、プラズマは一般には高温と考えられがちで、例えば、太陽の中心では、なんと1000万度にもなることが知られています。太陽の中心にあるのは水素ですので、陽子と電子がバラバラに、しかも極めて大きなエネルギーを持って運動していることになります。温度が高いということは、気体の運動のエネルギーが大きいことに他ならないからです。

しかし、この新しい拠点で研究される低温プラズマは、電子のみが高いエネルギーを持ち、原子核(正のイオン)は室温とほとんど変わらない温度の運動しかしていないものを指します。この低温プラズマは、従来から半導体の製造などに用いられてきましたが、この拠点ではそれを超えて、医療や農業などさまざまな応用を考えているとのこと、大きな成果、期待しています。

6月17日

本日は土曜日ですが、名古屋大学NExTプログラムの開講式に出席し、そこでの基調講演をいたしました。NExTプログラムというのは、名古屋大学初のエクゼクティブブログラムで、企業のトップやその候補になるような方々に向けて、名古屋大学の最高の知に触れていただき、そこから刺激を受けてもらったり、また、時にはビジネスの参考にしてもらう、というプログラムです。今回が4回目で、昨年まではコロナ禍ということで制約も多かったのですが、今回は全員対面で、懇親会も開催することができました。参加者同士の間のネットワーキングも大きな目的の一つで、業種を超えて和気あいあいと交流されている姿が印象的でした。

なお、私の講演は、ビジネスの役には全く立ちませんが、刺激は十分に受けてもらえたのかな、と思っています。タイトルは、「暗黒に支配される宇宙」、宇宙の眼にみえる姿の裏に隠された暗黒面について語りました。

 

6月16日

今週は、少し立て込んでいたので、自由闊達通信、書けないでいました。少し落ち着いたので再開します。

本日は、2026年に愛知・名古屋で開催予定のアジア・アジアパラ競技大会について、調印式が県庁でありました。この調印式は、愛知県の4年制の大学52大学の学長の集まりである愛知学長懇話会の下に、2026 年アジア競技大会・アジアパラ競技大会専門委員会を設置したことが契機になっています。本競技大会を学生中心に盛り上げていこう、ということで中京大学の梅村清英学長が委員長、至学館大学の谷岡郁子学長が事務局をつとめて発足し、現在は16大学が参加を表明しています。

式典は、愛知学長懇話会の代表幹事である私と、大村愛知県知事の間で調印が行われましたが、そこに協力を表明してくれている学生さんがたくさん参加していたのがとても印象的でした。3名の方が代表で挨拶をしたのですが、皆さん意欲にあふれた(また物おじしない)トークでとても良かったです。なかでも、日本福祉大学の学生さんが、パラスポーツをこの機会に広めるためボッチャや車いすバスケなどの体験イベントの企画を考えている、と話されたのには、感心させられました。

6月10日

土曜日ですが、とある業務のため出勤しています。お昼ご飯を地下鉄の脇にあるコンビニに買いに行ったら、名大祭、真っ最中でした。豊田講堂の前のステージでは若い人たちのパフォーマンスが繰り広げられ、多くのお客さんが集まっていました。ようやく制限なしで実施できるということで、お揃いの赤いハッピを着た実行委員の皆さん、また参加されている学生・市民の皆さんの顔も、大変明るいものに見えました。天気が心配されましたが、なんとか今日は持ちそうで何よりです。道を歩いていたら、たまたま名大祭のマスコットのゆるキャラ「ふりゃあ」がいたので、一緒に写真をとってもらいました。近くにいた附属高校の生徒たちには総長とバレてしまいましたが、実行委員の方々は気づいていなかったと思います。

 

6月8日

本日は、日本ガイシの本社ビルで、日本ガイシ留学生基金の評議会がありました。あまり知られていないかもしれませんが、日本ガイシは名古屋の留学生を支援する目的で留学生基金を立ち上げ、八事表山に留学生の宿舎(日本ガイシインターナショナルハウス)を40名分用意し、非常に安価で借りられるようにしています。また、それとは別に、月額12万円という給付型の奨学金(日本ガイシスカラシップ)も2年間限定ですが年間20名に対して支給しています。留学生の選考については、大学から推薦をして選考委員会で選ぶという形を取っています。

これまでお世話になった留学生の総数は、なんと1000名に届こうとしていて、中でも宿舎についてはアクセスの利便性から本学の留学生が圧倒的に多いとのこと、本学の国際化にとって大変力になってくださっています。感謝です。なお、留学生基金でサポートされている留学生と、地域の住民や子どもなどとの交流会なども、積極的に実施しているとのこと、留学生にとっても地域にとっても、とても良い機会となっています。

なお、評議会は、日本ガイシの会長・社長のほか、支援していただいている大学の代表ということで、南山大、名市大、名工大、東海学園大、そして名大の学長や、NHK名古屋放送局局長などがメンバーとなっています。このところ、5月に行われた金沢のイベントや愛知学長懇話会などで、すっかりお馴染みの顔ぶれです。

 

6月5日 ②

17時からは、学術奨励賞の授賞式でした。学術奨励賞は名古屋大学大学院博士後期課程の学生のうち、「特に優秀,かつ,将来の有望な学生」を奨励することを目的として、2011年度から始めたもので、今回で13回目になります。受賞者は今回の8名を加えて、これで101名となりました。名古屋大学の誇る最優秀の博士人材です。

学術奨励賞は、大学院の各研究科に推薦を依頼し、文系、理工系、生物系に分けて受賞者を決定します。受賞者は最大10名です。今回は、理工系が6名、生物系が2名となりました。所属の研究科は、情報学1名、理学2名、工学2名、環境学1名、生命農学1名、創薬科学1名でした。文系の受賞者が昨年に引き続いていなかったのは残念です。

授賞式には受賞者だけでなく、指導教員の方々も出席いただき、写真撮影を含めて、和やかな雰囲気で執り行われました。

受賞者の研究内容は、極めて多岐に渡り、ここでは紹介しきれません。そこで10月のホームカミングデイに合わせて、10月13日の19時に、NU3MT-Nagoya University 3 Minute Thesis competition-という企画を準備していることをご紹介したいと思います。オンライン企画ですが、学術奨励賞受賞者の皆さんに、3分間で自分の研究内容をわかりやすく説明してもらい、視聴者からの投票による大賞と総長賞を授与するというものです。受賞者には、豪華副賞とともに、ホームカミングデイ当日、豊田講堂で1000人の聴衆を前に、プレゼンをするという名誉(?)が与えられます。昨年から実施したのですが、非常に好評でした。今年の学術奨励賞受賞者の皆さんの研究内容を知りたい方は、是非とも、このNU3MTをご視聴いただき、1票を投じていただければと思います。 

 

6月5日

月曜日の朝イチから、学内で開催されている国際会議、Belle-IIコラボレーション会議でご挨拶をしてきました。Belle-IIは、つくばにある高エネルギー加速器研究機構(KEK)で実施されている素粒子実験で、それ以前に行われていたBelle実験のアップグレード版になります。 

そもそもBelle実験は、小林誠先生、益川敏英先生の予想を実験的に確かめるために行われたものです。3つのクォークしか存在が知られていなかった時代に、6つのクォークを仮定することで、CP対称性の破れという実験結果を説明できることを見出したのが、小林・益川理論です。小林・益川理論が説明に成功した実験は、軽い方から3つ目のクォークを含む粒子が軽い2つのクォークのみによって構成される粒子に壊れる際に、CP対称性が破れていることを見つけたものでした。小林・益川理論では、この実験の結果を説明するだけでなく、そこからの帰結として、もっと重い5つ目のクォークを含む粒子が崩壊する際に、やはりCP対称性が破れることを予想していました。そこで、Belle実験では、小林・益川理論が正しいことを証明すべく、5つ目のクォークを含む粒子を大量に発生させて、その崩壊を調べました。その結果、小林・益川理論の正しさが証明されたのです。この成果が、お二人のノーベル賞に結びついたことから、本学にとっても非常に重要な実験だったと言えます。名古屋大学のチームがそこでは大活躍をしました。 

Belle-IIはBelleのアップグレード版で、ものすごく大量のデータを生み出し、これまでより誤差の格段に少ない実験結果を得ることで、誰も知らない新しい物理法則を見つけてやろう、という野心的な計画です。順調にデータは貯まっているとのこと、成果が本当に楽しみです。この実験でも、名古屋大学のグループは中心的な役割を果たしています。 

小林・益川論文からちょうど50年の今年、本学でコラボレーション会議が行われることは感慨もひとしおです。しかし、挨拶ということで、スーツにネクタイで行ったのですが、物理学者はみなさんTシャツにジーンズみたいなラフな格好でした。ちょっとTPO、間違えたかも...

 

6月1日

いつの間にか5月も終わり、6月に突入しました。今年はすでに梅雨入りしていて、曇りや雨模様の日が続く今日この頃ですね。少し蒸し蒸しはするものの暑くないのが救いです。

今日もいつものごとく、打ち合わせが多かったのですが、その中で、いくつか学生や若い人との打ち合わせがあり、刺激をもらいました。特に、ランチタイムには、本学の誇る創発研究者2名の発表を、ランチを食べながらオンラインで視聴させていただきました。創発ランチタイムセミナーというイベントです。創発研究者とは、文部科学省・科学技術振興機構の創発的研究支援事業に採択された若手研究者を指します。採択されると7年間、研究費を毎年最大700万円支給されるなど独立したトップ研究者になるための支援を受けることができます。東大、京大に次いで採択者の多い名古屋大学では、創発研究者間の交流を通じて新たな研究の芽を生み出してもらいたいという思いで、創発ランチタイムセミナーなどのイベントを行っています。今回のお二人は、どちらも生命系、DNAがらみの研究をされている女性研究者でした。一人目は、DNAの損傷や転写ミスによって生じる病気についての研究、二人目はDNAからタンパク質を合成する翻訳機能を解明して自由自在なタンパク質合成を目指す研究ということで、どちらも大きな社会的インパクトが期待される野心的な研究と感じました。創発研究者として、思う存分研究に専念し、素晴らしい成果をあげてもらいたいと思います。

 

 

 

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