2023年7月

総長っていったい何をしているのか、疑問に思っている皆さんも大勢いるかと思います。ここでは、私が日々取り組んでいる仕事やその中で感じたことなどを、自由闊達に紹介していこうと思っています。

 

 

7月28日

本日は、EI創発工学館竣工記念式典に出席、祝辞を述べ、テープカットをするとともに、新棟の見学もさせていただきました。

この建物は、以前、工学7号館があったところに新設されたもので、地下鉄駅の3番出口からほど近く、IB電子情報館の向かいに立っています。主には工学研究科の物質科学工学専攻、マイクロ・ナノ機械理工学専攻が入居するとのことですが、建物の中には、学生が自由に使えるようなスペースがそこかしこにあり、また、2階の渡り廊下でつながっている福利厚生棟は、少し北側にあった生協の食堂や購買が移ってくるとのことです。人が集まりそうですね。

また、今回新棟を建てるにあたっては、株式会社FUJIと東京エレクトロン株式会社から多額のご寄付をいただきました。前者の寄付はFUJIホールという会議スペースと、FUJIスクエアという学生などが集まることのできるスペース、後者の寄付はTELオーディトリアムというこちらも会議場のスペース、それぞれの整備に充当させていただきました。感謝です。

今回の式典には、池田佳隆衆議院議員(前文部科学省副大臣)はじめ、文部科学省や株式会社FUJI、東京エレクトロン株式会社から多くの来賓においでいただきました。皆様からご挨拶をいただいたのですが、なかでも池田議員の祝辞、抜群でした。声の張りも良いし、メッセージもわかりやすく明確でした。さすが政治家です。

さて、新しい建物を見学するといつも思うのですが、どんどんと新しいコンセプトが入れられて良い建物になっていっています。新しいからきれいなのは当たり前ですが、明るくて、人とのコミュニケーションも取りやすい、本当に素敵な建物になりました。一方で、IT化という意味ではまだまだ、という声もありますので、使いながらさらに良くしていってもらえればと思います。
 

 

7月27日

本日は、第38回宇宙線国際会議に関係して、いくつかのイベントをこなしました。これは、宇宙線という研究分野で2年に一回開かれている最大の会議になります。宇宙線は、宇宙からやってくる粒子のこと、その正体は陽子や原子核、さらにはガンマ線(波長の短い光)、最近では、ニュートリノや重力波といったものまで含まれます。皆さんが思い浮かべる通常の望遠鏡でとらえる光(可視光や赤外線、さらには電波など)とは違った手段で、宇宙を見るわけです。宇宙線で見る宇宙は、基本的は、ものすごくエネルギーの高い現象と関係しています。例えば、太陽の表面の爆発(フレア)や、遠方の超新星爆発、ブラックホールの周りの現象など、極端な、その分とてもエキサイティングな現象になります。

本学をホストとして行われている今回は、オンラインとのハイブリッドということですが、会場に53カ国、1100名の方が駆けつけ、オンライン参加も300名以上という39回の歴史の中でも最大の会議になったとのことです。開会式では、豊田講堂がいっぱいになりました。このような大きな国際会議をホストすることは、名大としても非常に名誉なことだと思っています。

私のタスクは、開会式で名大を代表して歓迎のご挨拶を差し上げたことですが、今回の会にはノーベル賞受賞者が2名いらしており、この機会にお二人を交えて懇談もさせていただきました。写真を一緒に撮らさせていただきましたが、東大の梶田隆章教授と、MIT(マサチューセッツ工科大学)のサムエル・ティン教授です。MITのティン教授は、御年87歳ですが、未だ現役で、国際宇宙ステーションに検出器を置いて宇宙線を調べるプロジェクトのリーダーを務めていらっしゃいます。今でもMIT のあるボストンと、解析を行っているCERN(欧州原子核研究機構)のあるジュネーブを1週間ごとに行き来しているとのこと、ものすごくびっくりしました。両方に家があるので、荷物は最小とのことですが、1週間ごとに大西洋を横断するって、今の私の年齢でもとても考えられません。ノーベル賞のバイタリティでしょうか。

 

 

7月25日

本日早朝、本学のトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)で、火災がありました。すでに報道されているところですが、学内に消防車や救急車が入って、びっくりした人も多かったかもしれません。

一時は黒煙がだいぶ出ましたが、病院に運ばれるようなけが人はなかったとのこと、不幸中の幸いでした。

原因は未だ不明ですが、実験室ではなく研究室が出火元のようです。この機会に皆さんも仕事場やご自宅での出火原因となる、PCや携帯のバッテリーの充電中での発火、タコ足配線からの漏電、さらには火の不始末など、あらためてご留意いただけると幸いです。

 

7月24日

本日は、IDE大学協会東海支部主催の、大学と高校との合同シンポジウムを豊田講堂シンポジオンホールで行いました。4年ぶりの対面と、オンラインのハイブリッドで、100名近くの方に参加いただけました。

IDE大学協会は1954年に各界有志が自主的・積極的に協力して設立した民間の教育団体です。現在では、大学を中心とするわが国の高等教育の充実と発展を目的とした事業活動を展開しています。その活動で最も良く知られているのは、IDE「現代の高等教育」という冊子の発行です。小ぶりの冊子ですが、私も2023年1月号に、大規模国立大学の苦悩と求められる政策、と題して寄稿させてもらいました。それ以外にも、セミナーなどを主催しています。

IDE大学協会、東京の本部以外に、北海道、東北、東海、近畿、中国・四国及び九州に各支部を置いて、それぞれの理事会組織によって運営・活動しています。東海支部は、私が支部長をつとめ、多くの大学の参画をいただいているところです。

東海支部での主な活動が、今回の「大学と高校との合同シンポジウム」と8月に開催する「IDE大学セミナー」です。特に、「大学と高校との合同シンポジウム」は、東海支部独自の事業で、毎年大学だけでなく、高校の現場の関係者にお集まりいただいて、ご報告や意見の交換を行うことができる貴重な場となっています。

今回のテーマは、「学ぶ意欲を持ち続ける人材を育てる教育」、大変難しい問題です。これについて、高校側から愛知県立東浦高等学校の杉山千歳教頭と愛知県立刈谷高等学校の吉田直生教諭,大学側から愛知教育大学・真島聖子学長補佐と金沢工業大学・森本喜隆副学長の皆様をお招きし、それぞれの取り組みを報告いただき、またその後にはパネルディスカッションにも出席いただきました。高校の現場でも、相当に工夫をしており、東浦高等学校からは、10の必要な取り組みについてのご紹介などがあり、刈谷高校からはSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)をテコに学生のモチベーションを上げる試み、愛知教育大からは教育大学ならではということで、教える対象である子供をキャンパスに引き込むという試み、金沢工業大学からは他に先んじて行ってきたPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング=課題解決型学習)や学生に関わるもの丸ごとデジタル化といった先進的な取り組みをご紹介いただきました。大変刺激的なシンポジウムでした。

 

 

7月18日

先日、ケンブリッジのセント・ジョンズ・カレッジの学生の訪問の話を書きましたが、今日はカレッジについて、説明したいと思います。
カレッジは、イギリスの大学でもケンブリッジとオックスフォードに特有のシステムで、大学の中の独立した組織として存在しています。ケンブリッジには31のカレッジが、オックスフォードには39のカレッジ(プラス宗教組織と関係する5つのホール)があり、その成立は13世紀まで遡ります。オックスフォード最古のユニバーシティ・カレッジは1249年に設立、ケンブリッジ最古はピーターハウスで1284年に設立されています。鎌倉時代です。

カレッジは独自の財源を持ち、ケンブリッジで最も裕福で巨大な土地を持っているとされるのが、トリニティ・カレッジになります。ケンブリッジからロンドンまで、カレッジの土地だけを通って行くことができる、という話があるぐらいですが、真偽のほどはわかりません。

両大学では、入試の最後のインタビューはカレッジが執り行い、合格すればカレッジに所属することになります。カレッジには様々な専門の異なる学生がいて、専門の学部や大学院にはカレッジから通う、という形です。カレッジは学生や一部教職員が共同生活を送る場所で、イメージはハリーポッターの世界です。建物は小ぶりのお城のよう、美しい庭やチャペルなどもあり、広いダイニングには長い机が置かれ、学生はそこに座って食事をします。一方、教員は一段高いハイ・テーブルと呼ばれる場所で食事をすることとなります。

カレッジはそれぞれがライバル関係にあるわけですが、ケンブリッジ大学の中では、トリニティ・カレッジが一番、それに次いで人気があるのがキングズ・カレッジとセント・ジョンズ・カレッジだと言われています。カレッジのトップは、ディーンやマスター、ウォーデンなどカレッジごとに呼び方が異なりますが、非常に高い見識が期待されるポジションで、人選は卒業生に限らず世界中から最も良い人を選んでいるようです。

トリニティ・カレッジの卒業生には、フランシス・ベーコン、アイザック・ニュートンなど歴史上の人物から、ロード・バイロン、ロード・テニソンのような詩人や、アーネスト・ラザフォードなど34名のノーベル賞受賞者がいます。セント・ジョンズ・カレッジも負けていません。12名のノーベル賞受賞者には、量子力学の完成に大きな貢献をしたポール・ディラックやブラックホール研究で有名なロジャー・ペンローズなどの名前が見られます。詩人のウィリアム・ワーズワースも卒業生です。

カレッジに滞在すると、イギリスの伝統と底力をまざまざと体験させられます。私自身は、オックスフォードのカレッジのいくつかに滞在したことがあるのですが、その中でも最も印象深かったのがニュー・カレッジです。ニューと言いながらも、1379年に設立されたオックスフォードの中でも古いカレッジですが、建築、運営その他の面でその後に続くカレッジのモデルになったとされています。素晴らしいダイニングや美しい庭、パイプオルガンの設置されているチャペル、本当に圧倒されました。研究室を改造した寝室に泊まったのですが、お風呂が独立した部屋で、映画に出てくるような脚付の浴槽が部屋の真ん中にドンとあったのは忘れられない思い出です。

 

 

7月14日

名古屋大学は、ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジとの間で、毎年学生交流を行っています。ケンブリッジ側からは6人が7月のこの時期に、名古屋側からは2月から3月にかけて同じく6人が互いを訪ねます。10日ほどの滞在で、授業の聴講、学生交流、文化体験、学術施設見学など、非常に充実した留学プログラムになっています。東海東京財団様の補助をいただき、また互いの大学・カレッジがサポートすることで、学生の負担が非常に少ない形で、貴重な体験ができる全国的にもなかなかない素晴らしいプログラムに育ってきました。2015年から始まっています。

今日は、セント・ジョンズ・カレッジの学生6人が、滞在を終える、ということで、名大の学生(3月にセント・ジョンズ・カレッジを訪問した6名)と共に行ったAIについての共同研究の報告と、送別会を行いました。イギリス人だけでなく、ギリシャ人やナイジェリア人、ドイツと韓国のハーフの方など多彩なバックグラウンドを持った学生の中には、日本語が非常に達者なものもおり、びっくりさせられました。Youtubeで学んだそうです。

会には、東海東京財団の関係者の皆様や、この留学プログラムをスタートさせ、ここまで育てるのにご尽力いただいた、セント・ジョンズ・カレッジのマティアス・ドルザフ博士と、名古屋大学の岡本祐幸特任教授も出席され、対面で賑やかに行われました。岡本先生が、理学研究科の現役教員だった時にサバティカル(研究休職)をとって1年間セント・ジョンズ・カレッジに滞在されたことで、この交流はスタートしたという経緯があります。何を隠そう、理学研究科の物理教室でサバティカルのルールを詳細に決めて6年に一度、希望者は確実に取れるようにしたのが岡本先生と私でしたので、感慨深いものがあります。ただ、残念ながら、私自身は研究科長など様々な役についてしまったので、とうとうサバティカルは取れませんでした。残念!

 

 

7月12日

梅雨も終わりに近づいて、蒸し暑い日が続いています。さすがにジャケットを着て通勤は厳しくなってきたので、ジャケットを大学に置いて、シャツで通勤するようになりました。健康のためもあり、基本30分ほど徒歩で通勤しています。大学に着く頃には汗だくになる今日この頃です。すでに日中は35度を超える日もあり、梅雨明けが恐怖です。
 なんだか毎年夏が暑くなってきているような気がします。サイエンティストとしては、データが気になってきました。そこで気象庁のホームページにある月毎の平均最高気温の変化をグラフ化してみました。7月の毎日の最高気温を一ヶ月分平均した値と、同じく8月の最高気温の平均値を、1970年から2022年までをプロットしました。小学生の頃はもっと涼しかったという思い込みが正しいかどうか知りたかったので、53年分です。結果を見ると、毎年の変動はありますが、全体としてのトレンドは、明確に右肩上がりですね。名古屋は昔から暑かったのですが、それでも70年代は7月で30度ぐらい、8月でも32度程度だったのが、現在は、7月で32度、8月で34度くらいまで上昇しています。
 このグラフを見ていると、例えば1993年にすごく冷たい夏がきていることがわかります。この年は、冷夏でお米が凶作のため、タイ米などを緊急輸入したことが思い出されます。


7月10日

本日は、シンガポール国立大学から、ロジャー・タン教授が来られたので、時間をとってお話をしました。タン教授は数学の教員なのですが、大学の国際担当を長く務められた方で、タン・エン・チャイ学長からのご紹介で会うこととなりました。

40分間ほど、互いの交流などについて話したのですが、特に驚いたのが、生涯学習に関してです。学び直し、とも言いますが、今世界的に、大学を卒業した後も新しい知識を獲得するために大学に戻る、という動きが進んでいます。シンガポール国立大学では、まずは自大学の職員から、ということで4000人を超える職員を対象に、データサイエンスの学び直しの機会を与える活動を3年前から始めたとのことです。将来は、企業へのパッケージとして販売することを考えているとのことですが、これまでの成果として、大学の業務が非常に効率化され、データに対する親和性が高まったということでした。大学として時間を空けて、また費用も全部負担するという形で実施しているようです。データサイエンス以外では、AIやデザイン・シンキングなどを考えているとのことでした。参考になります。

 

7月7日

本日は、七夕ですが、バタバタと過ごしました。いつもの通り、梅雨真っ盛り、星空の見えない七夕ですが、じつは旧暦ではまだ5月20日、旧暦での七夕は今年は8月22日ですので、夏の終わり頃、天気も今よりはましだと思われます。夏は、銀河系の中心方向、つまり天の川がきれいに見える時期ですので、梅雨が明けたら是非夜空に目を向けてみてください。

午前中には、全学教育科目「名古屋大学の歴史」で、名古屋大学の将来・目指す方向を総長が話す、ということで一時間半、語ってきました。その中で、名古屋大学のイメージについて、地元率が高い、という話をして、学生にどうしたら東海地域以外から名古屋大学に来てもらえるか、と質問をしたところ、「研究でもっと目立つと良い」というもっともな意見のほか、「もっと遊べるところが欲しい」というような意見が出されました。確かに名古屋は若い人には少し退屈かもしれません。また大学の周辺にも店や遊ぶところがないということも言っていました。一方で、県外から来ている学生が「オープンキャンパスに来て、良かったので決めた」と言っていたのは、参考になりました。

 

7月6日

本日は、キャンパスコンサートが夕方、豊田講堂でありました。愛知県立芸術大学の音楽学部と提携して、そこの学生や卒業生に年2回、演奏をお願いするというシリーズになります。無料で事前申し込みも通常は不要、夕方に時間があればフラっと聴きに来ることのできるカジュアルなコンサートです。

今回は、同大学大学院を修了した石垣勝利さんと伊藤春菜さんのお二人に出演いただきました。いつもながら、しっかりと準備された堅実な演奏をお二人とも繰り広げ、非常に好感の持てる演奏会でした。石垣さんは、シューベルト、ショパン、リストといったポピュラーな演目の後、白眉はアルカンのグランドソナタからの抜粋。アルカンはフランスのロマン派時代の作曲家で、ショパンの友人だったことでも知られるピアノの超絶技巧の持ち主でした。珍しい演目だったのですが、繊細かつダイナミックな演奏で滅多に聴けない名演だったと思います。伊藤さんはロシアの作曲家、プロコフィエフの小品集を多彩な音色で華麗に演奏されました。本当に上手いピアニストです。アンコールは、二人の連弾でブラームスのハンガリー舞曲、息の合った演奏でした。

 

 7月5日

本日は、岡本若手奨励賞の表彰式を行いました。岡本若手奨励賞は、本学の岡本佳男特別教授が日本国際賞を受賞されたのを機に、本学に寄附いただいた資金を基に、先生の高い志に応える形で、2019年に創設いたしました。

ご存知のように、岡本先生は、不斉重合の手法を用いて、高分子を選択的に一方向のらせん型に合成することに世界で初めて成功されました。この一方向だけを選択的に、というところがミソで、この応用として、簡便でかつ実用的な光学異性体(右手型、左手型のいずれか)の分離の開発に成功されました。その成果は世界中で、医薬品・香料等の実用材料の開発・製造過程などにおいて広く利用されており、私たちの社会を支えています。一例を挙げると旨み調味料も味のある型だけ使えるようになったそうです。

岡本先生のご希望で、本賞は、自然科学・技術の分野で、本学の大学院博士後期課程在籍時に優れた博士学位論文を発表した若手研究者の研究活動を奨励し顕彰することとなりました。5回目となる今回は、生命農学研究科をこの3月に修了し、現在は製薬企業にお勤めの土田仁美さんと、工学研究科を昨年9月に修了し、現在は公共団体のセンターで主任研究員としてお勤めの小汲佳祐さんのお二人が栄えある受賞者となりました。おめでとうございます!

土田さんの研究は、乳牛の受胎率低下の問題を解明するために、ラットを用いた実験を行い、低栄養時や泌乳時で生殖機能がどのように抑えられるかの神経メカニズムを明らかにしたものです。乳を(過剰に)出すとなぜか生殖率が下がる、という問題に一石を投じました。

小汲さんは、外部からの刺激によって化合物の色が変化する現象を明らかにするために、オリジナルな材料を用いて、フィルムを作成し、そこに圧力をかけ、色変化を定量的に測定することに成功しました。得られた新しい材料では、これまでにない優れた空間分解能で圧力の微細なムラを捉えることが可能となるなど、今後の産業応用が期待されます。

お二人とも、ここまでの研究成果の素晴らしさはもとより、これからの研究成果が大いに期待されます。がんばれ!

 

最新の記事に戻る

過去の記事

share :
大学概要一覧に戻る